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2005年11月25日

2005/2006シーズンのオープニング公演
オペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の海外マスコミ評

2005/2006シーズンのオープニングで上演されたオペラ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は、ドイツでも注目された公演でした。ドイツのマスコミにも取り上げられましたのでその記事の一部をご紹介いたします。


オペルンヴェルト誌(opernwelt) 2005年11月号より (抄)
1997年に開場した新国立劇場において(「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が)公演された。この劇場はウィーンから来たオペラ芸術監督、トーマス・ノヴォラツスキーの指揮のもと着々と成長して、日本では来日オペラの対等な競争相手となってきている。国家の補助金で、ただチケット料金を安く提供できるからでは決してない。山の手線を少し外れた辺りにある現代的な建築の中では、クオリティも育まれた。この公演は、シュテファン・アントン・レック指揮による精彩な閃きで上演された。透明なすっきりした響き、柔軟さを備えたダイナミックさ、そして「けんかのフーガ」に至っては、アバウトな音ではなく、オーケストラと合唱の正確な音の組み合わせを、ここで初めて聞くことができたといえる。
また、この公演の良さには、新鮮できびきびしたソリストたちが貢献していた。その代表的な歌手は、アニヤ・ハルテロス(エーファ)、マーティン・ガントナー(ベックメッサー)、そしてハンス・チャマー(ポーグナー)である。特に驚かされたのは、日本人の歌手と新国立劇場合唱団たちであった。特に信じられないほど素晴らしかったのはダーヴィットの吉田浩之である。そして、磨き上げられた東京フィルハーモニー交響楽団の演奏。このオーケストラは、新国立劇場で演奏する二つのオーケストラの一つである。

 

ミュンヘン・メルクア紙 (Münchner Merkur) 2005年10月1日付より (抄)
(新国立劇場で上演された「ニュルンベルクのマイスタージンガー」では、)東京フィルハーモニー交響楽団とシュテファン・アントン・レックは、スコアーに深く目を入れた。序曲から柔らかく、滑らかに優雅に音楽が流れてくる。そこから続く数時間は、いかにワーグナーが回転よく、新鮮に、金細工のように、心に深く響くかを示してくれた。型どおりに振られる小節は一小節もない。レックはつねに歌心溢れるフレーズを緊張感をもって繋ぎ、フェストヴィーゼ(ペグニッツの野原の場)では力強い情感を込めている。そして、驚くほどのオーケストラと合唱の正確さ――。この一級品は、いままでバイロイトの緑の丘でしか体験することができなかった。

リチャード・ブルナーは、始め心温かく、最後には危ないまでに差し迫ったシュトルツィングを歌った。ハンス・チャマーは節のあるポーグナー、ペーター・ウェーバーは控えめな、しかし自然ではっきりとしたディクションでザックスを表現した。アニヤ・ハルレロスは、素晴らしくデラックスなエーファであった。演技も申し分なく輝く存在感があり、声は美しく、輝くクリスタルの透明さを持っている。そして、吉田浩之もすばらしいダ−ヴィットであった。

マーティン・ガントナーのベックメッサーはまさに競争相手を持たない。エーファの勝利の冠はどうしたって、彼のものになってしまう。大げさに主張し続ける書記官では決してなく、素晴らしい歌のテクニックとちょうど良いジェスチャーでどの言葉も明確に、インテリに納得できる人物像を作り出した。将来、世界の大きな歌劇場において彼以外の配役は出来ないであろう。当然のことながら、観客は熱狂して拍手を贈った。