オペラ2003/2004シーズンへのいざない

ノヴォラツスキーこの度、新国立劇場のオペラ部門次期芸術監督として、来秋からのラインアップを皆様に発表できることを大変嬉しく思っています。公演演目の選定に際して、まず取り組んだのは、新国立劇場に足を運ぶオペラファンの高い要求に応え、且つ世界の名だたるオペラハウスと肩を並べることが出来るような公演ラインアップを作り上げることでした。
私の任期である3シーズンで上演されるオペラに一つの流れを作りました。モーツァルトに始まり、20世紀に至るまでの"オペラの旅"です。私たち劇場スタッフが、演出家、指揮者をはじめ魅力溢れるキャストと創り上げる旅を通して、オペラの進化の跡をたどっていきましょう。
また、シーズン毎に設定したテーマも、この旅をいっそう興味深いものにしてくれるでしょう。2003/04シーズンのテーマは「男たちの運命」です。男たちは、よくある日常を経験し、時に心や魂を荒れ狂わせ、不思議な夢の世界を体験し、シーズン最後の公演を終える時には様々な人生経験を経て人生を達観するに至ります。男たちの運命を、プロダクションにかかわるメンバーが独自の視点で解釈し、表現していくことでしょう。
 
フィガロの結婚
シーズン開幕公演は、多くのオペラファンに馴染みがあり、同時に常に新しい発見をもたらす不朽の名作「フィガロの結婚」です。この作品を選定した理由は1.モーツァルト作品が近代オペラ史の礎と考えられ、2.日常的に見られるような男たちの運命が繰り広げられ、3.この作品を自分の任期中に展開するモーツァルト・シリーズの第1弾にふさわしいと考えたからです。現代最高のオペラ演出家の一人ホモキ氏と指揮のシルマー氏との共同作業で、新鮮な驚きと発見にあふれたモーツアルトの世界への旅立ちとなることでしょう。
ホフマン物語

シーズン2つ目の新制作はオッフェンバックが私たちに遺したベルエポック時代の代表作「ホフマン物語」です。オッフェンバック唯一にしてオペラ界における最高傑作の部類に入るこの作品は、未完であるがゆえに常に新しい謎を私たちに投げかけます。指揮には、世界で活躍する若手指揮者の中で卓越した存在である阪哲朗氏が登場します。演出と舞台美術は、ジャン・ピエール・ポネルの伝統を継承し、今年のバイロイト音楽祭でもティーレマン氏と「タンホイザー」を手掛けたフィリップ・アルロー氏が担当します。現実から離れ、夢の世界でしか存在できない男、ホフマンに、この2人がどう取り組むか、ご期待ください。

鳴神・俊寛
「建・TAKERU」で開場した日本初のオペラハウスである新国立劇場に、今シーズンも日本オペラが登場します。それぞれ、歌舞伎・能・文楽と受け継がれてきた日本の伝統芸術が、西洋の伝統芸術であるオペラと融合したこの両作品は、インターナショナルな魅力をたたえています。この公演は、二期会オペラ振興会との共催となります。指揮には、世界の一流オーケストラとの客演も数多く、日本人指揮者の中でも、一、二といわれるバトン・テクニックの持ち主である秋山和慶氏に登場願いました。日本の伝統芸能への造詣も深い氏が作品に新しい息吹を吹き込み、オペラファン以外の方々にも興味を持っていただける、素晴らしい公演となることを確信しています。
スペインのきらめ
現在、世界的に見ても珍しく興味深い試みとなるのが、このバレエとオペラによるラヴェル4作品の上演です。バレエとオペラの作品を組み合わせた芸術形態は、今でこそ風変わりな印象をもたれるかもしれませんが、フランス・オペラの発展にも見られるように19世紀のヨーロッパでは度々見られ、この二つが常に一緒に上演されたり、オペラの中に大きなバレエシーンが挿入されて、大成功を収めていました。指揮にフォルクスオーパーの次期音楽監督に決定しているマルク・ピオレ氏、演出は、新世代の振付家として重要な地位にあるニコラ・ムシン氏、美術は建築・絵画・舞台美術、ブルガリのデザイナーとしてマルチタレントぶりを発揮しているダヴィデ・ピッツィゴーニ氏です。素晴らしいバレエ団をもつ新国立劇場ならではの意欲的作品に対して、心強い賛同と助言をいただいた舞踊部門の牧芸術監督と、緊密な連携を取って制作を進行しています。オペラファン・バレエファン・オーケストラファンの皆様にお楽しみいただける作品となるでしょう。
神々の黄昏
ワーグナーの大作『ニーベルングの指環』の締めくくりとなる作品です。既に「ラインの黄金」「ワルキューレ」の上演後"トーキョー・リング"と呼ぶにふさわしい日本から世界に発信できる作品として大好評を博しています。準・メルクル氏の指揮、キース・ウォーナー氏の演出で、神々の運命がクライマックスを迎えます。オーケストラは「ジークフリート」に引き続きNHK交響楽団となります。ワーグナー作品の偉大さについては、音楽史上様々な議論がなされてきましたが、1つ明確なこととして言えるのは、"ワーグナー作品が全ての世代の人々に訴える力がある"ということでしょう。
マクベス
数あるヴェルディ作品の中でも特に重要と考える「マクベス」を登場させます。演出に、演劇界の鬼才、野田秀樹氏を迎えられたことを大変嬉しく思っています。指揮のミゲル・ゴメス・マルティネス氏との素晴らしいチームワークで画期的な「マクベス」が完成することでしょう。野田氏の作品をいくつか見ていますが、彼独自のストーリーの語り口や人間の運命の示唆に、強く惹きつけられました。
ファルスタッフ
新制作のしんがりを務めるのは、ヴェルディとシェイクスピアの遺言ともいえる「ファルスタッフ」です。全てを経験した一人の男が、微笑みながら超然とその人生の終盤を迎えている。演出はジョナサン・ミラー以上の適任者はいないでしょう。ずば抜けたユーモアのセンス、豊かな人生経験と人生への造詣の深さを持ち合わせた、またとない人選といえます。指揮のダン・エッティンガーがその片腕となって、ヴェルディ作品がもつエネルギーを発散させ、若々しく情熱的な指揮をみせることでしょう。
 
再演作品としては、新国立劇場のレパートリーから「トスカ」「サロメ」「カルメン」を選びました。
さらに、私たち劇場を支える重要な柱の一つをご紹介いたします。経験豊かな合唱指揮者、三澤洋史氏率いる新国立劇場合唱団です。また、東京フィルハーモニー交響楽団と東京交響楽団の二つのオーケストラが、ここでご紹介いたしました国際的な指揮者達と共に、この劇場に音楽的アイデンティティーをもたらしてくれることでしょう。
全ての公演を通して、歌手陣には、レパートリーとして世界的に定評のあるベテランから、国際的なキャリアを積み重ね始めた注目株まで、様々な声楽家が名を連ねています。世界で活躍中の日本人声楽家が、新国立劇場をその故郷として舞い戻り、この舞台に立つでしょう。新国立劇場で多くの舞台経験を積んだ日本人声楽家が、必ずや世界へと羽ばたいていく事でしょう。

新国立劇場2003/04シーズンにどうぞご期待ください。

ノヴォラツスキーのサイン
新国立劇場オペラ部門芸術参与
トーマス・ノヴォラツスキー
Thomas Novohradsky
 
2003/2004シーズン 活動方針
  1. 新国立劇場を国際的な注目を集める劇場にする
  2. モーツァルトから20世紀に至る"オペラの旅"へのいざない
  3. シーズンの新制作公演のテーマは「男たちの運命」
  4. スタンダードな作品上演でオペラファンの層を拡大
  5. 日本国内で上演機会に恵まれなかった名作の上演
  6. 日本人作曲家の作品上演

ラインアップの詳細はこちらをご覧ください。


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