演出家からのメッセージ

秋元松代さんの戯曲は、学生の頃から愛読していた。だから、何度も読み返しては、いろいろな舞台空間を空想し、勝手に組み立て、その世界のなかでその軽妙な言葉のやりとりを楽しんだ。
2年前、新国立劇場演劇研修所第4期生の試演会で上演した秋元さんの『マニラ瑞穂記』を、今回、本公演として上演することになった。試演会では、稽古場を自由に組み立てて創った簡潔な美術だったが、今回は小劇場の空間がより密に、110数年前のあの熱を帯びたマニラの風景として、生まれ変わればと思っている。
この作品は悲喜劇でありながら、実に鋭く歴史への問題意識がドラマの底に書き込まれている。複数の立場に立つ登場人物たちの執拗なまでの好奇心と絡み合いつつ、自在にドラマは動く。鮮やかに現代へと繋がれた主題は、登場人物それぞれの夢として響き合い、健在である。
研修所修了生を中心とした若いメンバーの成長も、観てほしい。

栗山民也