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演劇「マニラ瑞穂記」千葉哲也&山西 惇 対談

『マニラ瑞穂記』 千葉哲也 ✕ 山西 惇 



秋元松代の『マニラ瑞穂記』は、明治30年代のマニラが舞台。フィリピン独立戦争のさなか、日本領事館に集まる人々を通して、日本や日本人を見つめる傑作に、二人の魅力的な俳優が挑む。千葉哲也と山西惇、舞台、映像で幅広く活躍する二人は、意外にも初共演。女衒の親分・秋岡と領事の高崎、正反対の立場にありながら、どこか共感を抱きあう男たちを、どのように見せてくれるか期待がふくらむ。

 

インタビュアー:沢美也子(演劇ライター)

 

――作品について、どんな感想をお持ちですか?


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千葉 女性たちが主役で、すごくたくましいですね。明治時代というと男尊女卑の風潮が強いのかなと思うけど、この作品中の女性たちはすごく大らかで、男たちより一枚、自由で上手(うわて)な感じです(笑)。男たちはすごく時代の背景や政治に縛られているように思います。明治の男たちが何に邁進していたのか、探るところから始めないと。

山西 明治時代の日本人の佇まいというものが、沁みだしてこないといけないのかなと思うのですけど。

千葉 そこが一番大事なような気がするんですよ。

山西 どうすればそうなるのかはまだよくわからなけど。特に僕の役、高崎はお役人だけど、反骨精神を持っていて、千葉さん演じる秋岡に共感しているところもあると思うんです。秋岡と話す時だけ、べらんめい口調だったりしてね。明治の時代に日本人がこんなに外国へ進出していたということも、驚きです。

千葉 昭和になると、もっと政治的だったりするじゃないですか。でも、明治30年代は、そんな感じがしないですよね。埋もれていない感じがするんですよ、人が。のんびりしていて、あまり成熟していないというか、ずるくないっていないんですかね。秋岡が古河中尉と決闘するところなんか、ちょっとチェーホフみたいだなと思って。

山西 僕も思いましたね。

千葉 昔、侍の時代は名乗って戦うじゃないですか。ああいう名残がちゃんとあったりするんですよね。

山西 時代劇とも捉えにくいし・・・。

千葉 『焼肉ドラゴン』の時は、僕は在日韓国人の役で資料を読んで初めて、当時の彼らはとても抑圧されているとわかって、相当ジャンプしないとできなかったんです。翻訳劇に近くて、今回もそんな感じがします。

山西 登場人物が裏と表がない人のようで、あるようで、どっちだろうみたいな。経験したことのないタイプの戯曲ですね。


――高崎も秋岡も一筋縄ではいかない人物ですが。


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山西 高崎は相当なインテリで、役人になってはみたものの、お国のあり方や軍のあり方にちょっと馴染めないんではないかと。秋岡とは結構、本音で話している感じがするから、そんなに違和感はないんですけど、片や軍人さんと話す時は、どういう言い方をすればいいんだろうかと思っていて。当時の軍人が、どこに向かっているのかわからなくて。国のために身を捨てるということを、純粋な気持ちとして持っていたのかもしれない。

千葉 「日本と天皇陛下のために」にという思いがあるじゃないですか。それは現代には欠けてるけど、そのために人生がひっくり返っていく人たちの話だから、よっぽど純粋じゃないといけないという気がする。

山西 精一杯の純粋さを持って演じないと。相当汚れていますからね、僕らも。

千葉 (笑)。

山西 国のために身を捧げて、その先に挫折があって、どうにもならなかったという、その後の歴史をまだ知らない人たちだから、純粋さが大事なんだろうなと思います。

千葉 狙うべきは中年の純粋なんだけど、それ、残ってるかなあ(笑)。

山西 (笑)。高崎と秋岡は国のために命を賭けることと、女の人の身体を売らせることに対する倫理観みたいなものが全然違う気がするんですよね。「あんな仕事さえしてなけりゃ、秋岡はいい奴なのに」と言ってますし。

千葉 秋岡は高崎に説得されて、一度は女衒をやめたけど、他の仕事が結局うまくいかなくて、元の女衒に戻ってしまった男です。でも、ある意味、愛国の志士のようなところがありますね。

山西 どこでどんな仕事をしていても、日本人であり続けた人かもしれないですね。


――栗山さんの演出はお二人とも経験していらっしゃいますね。


山西 今年、『木の上の軍隊』と『それからのブンとフン』、2本やらせてもらいました。どう見えてほしいかということを、的確に指示してくださるので、僕はやりやすいです。それはどういう気持ちやからなんやろ?というところは自分で考える。その答えを見つけようとするのが俳優の作業やと思うので。見え方だけを言ってもらって、稽古しているうちに、気持ちってできてくるものなんです。なんとなく(笑)。

千葉 俳優が思っている気持ちと、出してる気持ちと、見えている気持ち、全部違うと思いますよ。僕は、栗山さんとはこまつ座の『闇に咲く花』など4回ぐらいあります。『胎内』以来だから10年ぶりくらいですね。栗山さんは、作品によって演出の仕方が違うので、今回も楽しみです。


――研修所卒業生の若い俳優たちと共演することについては、どんなお気持ちですか?


山西 国立の劇場に俳優の学校があるということは、とても大事なことだと思いますね。彼らが演劇の未来を担っていってくれないと困る、ぐらいの気持ちがあります。

千葉 ありますね。ただ、若い子たちが多くても僕は普通の現場と変わらないと思う。向こうの方が緊張はするんでしょうね。その辺だけは解いてあげないといけないと思うんですけど。

山西 そうですね。それ以外はいつもの稽古場の接し方でいいと思います。


――若い俳優にとっては、お二人の演技を見ることは勉強になると思います。


山西 そういってもらえるとありがたいです。自分がプロデュース公演に出させてもらうようになって、憧れの先輩方の稽古から本番に至る、その人の生き様というか、芝居のし様を見て育ってきたという気持ちはすごくあるので。

千葉 養成所のいいところは、こういう企画で出会いがあることですよね。若い人たちにどんどんいろいろな出会いをしていってほしです。

山西 正解を追い求めがちだと思うんですね、若いと。でも、正解はないから。僕は若いころは「それが正解」と言われると、それはやらんとこって思ってました(笑)。


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――今回の抱負をお願いします。


千葉 一筋縄でいかない人物なので、こっちも相当荒馬を乗りこなさなきゃいけない感じがしますね。「何でそうなるんですか?」と言われても、「よくわからないんだよ、俺だって!」というところに行きたいなとは思います。

山西 こんな役柄、こんな戯曲ってほぼ初めてなので、ワクワクしています。どんな芝居になるんやろというのが、わからない感じのほうが楽しかったりしませんか?

千葉 楽しいです。大変なのはわかってるんですけど。

山西 大変だけど、こんな難しいことやりたいですよ。出会ったことのない僕に出会ってみたい、ということでしょうか。

千葉 見つけたら教えてくださいね。

写真:宮川舞子


(新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 2月号掲載)



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