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「マニラ瑞穂記」演出 栗山民也インタビュー

4月3日から開幕する「マニラ瑞穂記」を演出する栗山民也のインタビュー。

作品に対する思い、そしてどのような舞台になるのか語っています。

<下記インタビューはジ・アトレ1月号掲載>


明治の半ば、フィリピン独立戦争に揺れるマニラの日本領事館に様々な人たちが集まってくる。独立戦争に協力する日本の青年たち、領事館付の武官、そして女衒の親分と女たち。彼らを通して、日本と日本人について鋭く描いた秋元松代の名作が登場! 新国立劇場演劇研修所修了生に多くの機会を与える公演として上演する、「長い墓標の列」に続く第二弾。現代の日本に通じる重厚なドラマを栗山民也が精緻に演出する。


インタビュアー◎ 沢 美也子 (演劇ライター)



明治とは何だったのだろう――真っ向から真実を見据える戯曲



栗山民也

 宮田さんが演出した第一弾の「長い墓標の列」も好評でしたし、本当の意味で若い俳優を育てるためには、大切な企画だと考えています。秋元松代さんの「マニラ瑞穂記」は、僕は以前に研修生の試演会で取り上げていますが、何よりもこの戯曲の力に惹かれます。最近、本物とは何だろうと、すごく思うんですよ。演劇だけではなくて、日本の文化がサブ・カルチャーだけになっている現状を見ると、本物がなくなってしまったと思うけど、井上ひさしさんをはじめ、僕は確かに本物に出会ってきました。あふれるような好奇心や、抑えがたい衝動に突き動かされて書かれた戯曲、しっかりとした人間の声が聞こえる戯曲が本物で、僕は心を惹かれます。秋元さんの戯曲もそうなんですね。作家の必死な手つきが、登場人物それぞれの台詞に現れています。
 明治三十年代のマニラで、米西戦争の結果、スペインが負けるんですが、裏面史としては、アメリカがスペインからフィリピンを二千万ドルで買って、植民地にした事実があります。日本の志士たちはフィリピン独立戦争の手助けに行って、これは清々しい精神だったでしょう。でも、日本の軍部は独立戦争に便乗してアジアを植民地にしようと考えていたわけです。
 「マニラ瑞穂記」は第二次世界大戦後に書かれていますから、歴史の裏側までも検証するように、しっかりと見据え、その中でたくましく生きた人間たちを描いています。
 テーマとしては、とても重いんですね。明治がどういう時代だったのかを、問いかけてきます。明治維新で強引に近代というものを導入した結果、そのひずみが実はいろいろなところに出ているんですね。富国強兵から軍国日本へと突き進んで、悲惨な戦争をした。その始まりは明治時代。今、明治を見直すことは非常に必要なことだと思います。そして、明治の強引な近代化から生まれたのが、棄民です。「からゆきさん」と呼ばれる女性たち、彼女たちを束ねる女衒の親分なども、日本からはじき出された人たちです。秋元さんの視点はその棄民を描いています。貧しさから「からゆきさん」となった女性たちを、涙だけでなく笑いとして描いているのが、すごいところですね。とても武骨で底抜けに明るい庶民のたくましさがある。そういうところに、現代では見えにくくなった歴史の裏側が見える。今は汚いもの、見たくないものを排除してしまう風潮がありますが、秋元さんの戯曲は、真っ向から真実を見据えているんです。
 明治とは何だったのだろうという入り口から入って、現代に響く舞台にしたいと思っています。人間が持っている才能、好奇心、欲望も含めて、大事なんだけどうまく使っていない気がするんです、今の日本人は。皆が同じ顔になっているような。この作品に登場する娼婦たちは五、六人いて、全員個性が違います。秋元さんの中でイメージがはっきりしている。異質なものが共存する健康さについても掬い取っていきたいと思います。




「マニラ瑞穂記」

公演日程:2014年4月3日(木)~4月20日(日)

前売開始:2014年2月15日(土) 10:00~

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