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『プライムたちの夜』主演・浅丘ルリ子、インタビュー

この11月、小劇場で開幕する『プライムたちの夜』は、死んだ人の姿、その佇まい、記憶を宿す人工知能「プライム」と過ごす家族の物語。異色のSF家庭劇は「愛」をどのように描くのか。小劇場での家庭劇は初めてという主演の浅丘ルリ子と共に、この一家の抱える喜びや葛藤、そして人工知能と人間が共存する近未来の世界を紐解こう。

インタビュアー:鈴木理映子(演劇ライター)


私は、
私のマージョリーを
演じようと思います



――本作は、親子、夫婦の葛藤を描く家庭劇でもあり、「プライム」と呼ばれるアンドロイドが登場するSF劇でもあります。浅丘さんは、この戯曲の世界観をどんなふうに受け止められましたか。

浅丘 これまでずっと、舞台では「人に見せるもの」、内容はもちろん、衣裳でもメイクでもお客さまを驚かせ、楽しませるものをお見せしたいと思ってきましたから、普通の奥様の、普通の家庭の物語っていうのは、私はやったことがなかったんです。ですから、この物語についても、最初は「あ、これはとてもできない、やれない」と思いました。でも、何度か読んでいるうちに、「これってやっぱり、すごい広がりがあるし、面白い話なのかもしれない」と。一度やると決めたからには、前向きに、楽しんでやろうと思っているところです。


――「広がり」を感じるのは、どういった部分からですか。

浅丘 このお話に出てくる「プライム」みたいな人間は、実際にはまだいないそうですけど、この地球のどこかに「プライム」がいてもおかしくはないのかもしれません。そういうふうに想像をめぐらせると、ただ単に、日常のせりふをやりとりしてるだけの場面も、とっても不思議なものに見えてくるなと思うんです。今はもう、人工知能(AI)が将棋で人間を負かしたりしますから、タイムリーといえばタイムリーな話でもありますよね。


――浅丘さんが演じられるのは、85歳の女性・マージョリー。娘夫婦の介護を受け、夫・ウォルターのプライムを相手に昔語りをしながら、晩年の日々を過ごしています。

浅丘 「私、こんな役できるの? 私、老けないけど」って思いましたよ。でも、同じ85歳でも、一線でお仕事されている方たちっていうのは、もっと若々しくなさってますしね。この前テレビドラマでご一緒した八千草薫さんだって、お歳はそのくらいですけれど、本当にかわいらしく、若々しくていらしゃいました。ですから私は、私のマージョリーをやろうと思います。もちろん、体は悪いところがありますから、立ち上がるのも座るのも、「気をつけて、気をつけて」という感じですし、もの忘れだってひどい。でも彼女って、気は元気なんですよね。わがままで、いつも娘や婿、夫に世話ばっかりかけて、それでもみんなが許してくれるし、自分も平気でいられちゃう。つらい思い出だってあるけど、娘のことはちゃんと愛してる。そんな、かわいいおばあさんをつくりたいですね。


――その八千草さんと共演されたドラマ「やすらぎの郷」もまた、マージョリーたちと同じように、人生の終局を迎えた人たちの物語でした。年齢を重ねてもなお、自分たちのプライドや欲を隠さず右往左往する人々の姿を見ていると、むしろ微笑ましいような、明るい気持ちにさせられました。

浅丘 あのドラマを観ていた方たちが私を見て、お化粧を濃くしたんですって(笑)。ちょっと口紅をさしたり、目張りを入れたり。素敵でしょう? そういう方が増えたって聞いて、すごく嬉しかった。やったかいがあったなと思いましたね。


――マージョリーもまた、いわゆる「老人」の枠にはまらない気持ちを持っている女性なのかもしれません。

浅丘 今ね、私が稽古場で何かせりふを言うたびに、みんながウケるんですよ。いろんなやり方、言い方を試していますからね。私は「何が面白いの?」って思うんだけど(笑)。「これだと元気すぎますか」「もうちょっとおばあさんっぽいのがいいかしら」なんて演出の宮田さんともお話しながら稽古を進めています。



もしできるなら、
裕ちゃん、ひばりさんの
プライムと話してみたい

――マージョリーが亡くなった夫のプライムと語り合ったように、この物語の登場人物たちは皆、それぞれに自分の愛するプライムを持ち、彼らと対話することで自分を慰め、思いを伝えようとします。その様子にはどんな印象を持たれましたか。

浅丘 家族のこと、夫婦や親子の問題、その心情を、プライムたちの方が代弁しているようなところもありますね。だから私も、人間としてのマージョリーは、自由に、好きに演じさせていただくけれど、娘のテスから見たプライムとしてのマージョリーを演じる時には、やっぱり「テスの望むマージョリー」でいたいと思っています。人工的につくられたアンドロイドでも、人を愛すことの大切さを知ることができる......これは、そういうお話でもあると思いますから。


――亡くなった家族、友人のプライムをつくり、会話したいという気持ちには、共感できましたか。

浅丘 ちょうど今日、稽古場でもそんなことを話していたんですけど、もし、そういうことができるなら、私は裕ちゃん(石原裕次郎)や(美空)ひばりさんに会って、話してみたいかな。ただ、これが叶っちゃうと、悪用する人も出てきそうだし、世の中に人間が増えすぎちゃいますよね。だからきっと、プライムはお家の中にしかいちゃいけないとか、いろんな決まりができてくるんでしょう。私のプライムもつくられますね、きっと。声もそっくりで、お芝居もできたら面白いなと思うけど......。


――でもやっぱり、観客としては、本物じゃないと観られないものがあると思いたいです。それこそ、このお芝居も小劇場での上演ですから、間近で本物を体験したいというお客様もたくさんいらっしゃると思います。

浅丘 そうですね。私、三百人の小劇場というのも初体験なんです。こんなにはっきり顔が見えそうなところでやるのは初めてだから、どのくらいの声を出していいのかもわからないくらい。ただ、お客様を決して飽きさせないためにも、しっかり聞こえるように話そうね、っていうことは稽古場でも言っています。小さなことでも、大きく広げて伝えていかないと、眠たくなっちゃう。特にこういう会話の劇ではね。



――出演者が四人だけというのも、濃密な稽古、本番を想像させます。

浅丘 ええ。いい雰囲気でやれています。お客さまが、私たちの会話にちゃんと聞き入って、そこからいろいろと想像してくださるといいですね。小劇場の空間で、それこそ間近でご覧いただければ、いっそう心情も近く感じられるんじゃないかと思いますし。そう考えると、たった四人で、舞台にいる時間も長くて大変ですけれど、この劇場で、この作品をやることは、とても面白いし楽しみです。


新国立劇場・情報誌 ジ・アトレ 11月号掲載


<あさおか るりこ>
1955年、映画『緑はるかに』でデビュー。以後、日活看板女優として活躍。その後も『男はつらいよ』『四十七人の刺客』『鹿鳴館』など数多くの映画や、テレビに出演。本年も『おんな城主直虎』(NHK)、『やすらぎの郷』(EX)への出演にて話題を呼ぶ。菊田一夫演劇賞はじめ多くの受賞歴もあり、2002年には紫綬褒章、2011年には旭日小授章を受章。舞台においては、1979年の蜷川幸雄演出『ノートルダム・ド・パリ』を皮切りに、『夜叉ヶ池』『にごり江』『草迷宮』『おかしな二人』『三谷版桜の園』『乾いた太陽』など数多くの作品に出演。本作の演出家宮田慶子とは2002年、04年、06年と上演された『伝説の女優』以来のタッグとなる。新国立劇場への出演は初となる。



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『プライムたちの夜』


会場:新国立劇場・小劇場

上演期間:2017年11月7日(火)~26日(日)


出演:浅丘ルリ子 香寿たつき 佐川和正 相島一之


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