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「アルトナの幽閉者」公演評が朝日新聞に掲載されました


2月19日(水)に初日を迎えた大好評の演劇公演「アルトナの幽閉者」。演劇評論家 山本健一氏による公演評が2月27日(火)の朝日新聞夕刊に掲載されました。


新国立劇場「アルトナの幽閉者」 サルトル描く戦争と責任

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撮影:谷古宇正彦

 言葉の人サルトルの思想を、どう人間の存在感として立ち上がらせるか。戦争の世紀であった20世紀の罪と責任を、どう今に引き受けるのか。
 戦後ドイツの造船王5人家族の繁栄と悲惨を描いた「アルトナの幽閉者」を今、岩切正一郎の新訳で上村聡史が演出する意味は、この2点だろう。

 前者。第5幕で父(辻萬長)と息子のフランツ(岡本健一)との悲痛な対決から浮かび上がる孤独、愛、死、断罪という観念の肉化が分厚い。冷徹と慈愛が同居する父。辻は重厚でいて穏やかさも滲ませる。岡本もファザコンの繊細さで、愛し憎んだ父と無残な一体化をする。アクロバットのようなサルトル哲学が生身の言葉として躍動する。
 後者。フランツは従軍中に捕虜を拷問した罪への呵責から、自邸の一室に13年間閉じこもる。父は強制収容所の脱走者をナチに密告した。拷問者と密告者。末期がんの父は一切を清算するために息子と再会するのだ。
 戦時中の拷問場面を現在(初演の1959年)に差し込む。フランツは帰還中に、家族と片足を奪われた村の女から戦争の罪を断罪される。黒い衣姿は今の戦争被害者と重なってくる。折り曲げた煙突と、垂れ幕を使う構成舞台風の強い美術(池田ともゆき)が効果を上げた。
 破局に赴く息子は卓上に指輪を外して置く。弟(横田栄司)が、自分の指にはめ直して幕が下りる。全ての不条理は清算されぬまま引き継がれる。戯曲にはない明晰な演出だ。明暗するヒトラーの肖像が、戦争の歪んだ鏡の役割を果たす。人類への審判を仮託した蟹のイメージはわかりにくくはないか。
 他に吉本菜穂子、美波らが出演。エロスは少し薄いが、極限状況の密室劇らしく、全体に演技の密度は濃く練り上げられた。
(山本健一・演劇評論家)

 

2014年2月27日(火) 朝日新聞夕刊


朝日新聞社の許諾を得て掲載しています

※文中、辻萬長の「辻」は一点しんにょう



「アルトナの幽閉者」は3月9日(日)までの上演です。どうぞお見逃しなく!

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