2013年12月
2013年12月20日
辻 萬長 紙面インタビュー
僕らは純粋に、
このドラマ、
この会話の面白さを
伝えなきゃいけない
辻 萬長
『出口なし』とか『恭しき娼婦』は読んだこともあったけど、この作品は読んでなくて。サルトル全集を買い込んで読みました。翻訳劇をやるときは、訳の違うものをいくつか比べて、参考にしたりもするんです。どっちが正しいとかじゃなく、ちょっとした訳し方の違いから、分かってくることがある。といっても、新しくもらった台本の方が、分かりやすいんですけど。
読んでて難しいなと思ったのはやっぱり、フランツと親父の関係。俺も息子が二人いるから分かるんだけど、親父って息子が心配なんです。だからこの父親にも「厳格」って言葉でカモフラージュされた愛情、過保護、みたいなところがあるんじゃないのかな。そんな関係性を基本に持っていれば、二人の会話もどんどん豊かに膨らんでいく気がします。個人的には、最後に父と息子が対決した後、そろって家を出て、っていう終幕の心理がもう少し掴めるともっと楽しくなれるんだけど……それはまだこれからの作業です。
ただ、ちょっと気になってるのは、この戯曲ってト書きが多過ぎるんだよね(笑)。「と、そこで煙草を消して」なんてことまで書いてある。でもそれにとらわれず、いったん言葉だけを頼りにこの作品を掴む作業はしておこうと思います。フランスの演出家でいいこと言った人がいてね。「戯曲は竹林のようなものだ」って。地上にスッと出ている竹が台詞で、「一見その間が飛躍しているように見えても、地下では必ず繋がっている。どうしてこの台詞の後にこの台詞が出てくるの?なんて疑問が出てきたら、筍のもとを掘ればいい。その作業が面白いんだ」って。まさに、その通りです。
演出の上村さんは、こまつ座の芝居で鵜山(仁)さんの演出助手をやってくれたことがあって。鵜山さんも彼には一目おいて、いろいろ相談しながら物事を進めていたし、僕も信頼しています。彼も「じゃあ、ト書きの通りここで右に」「今度は左にお願いします」なんて言うタイプじゃないと思うしね。「どうなんだよこれ」「そうですね、じゃあ……」「いや、でもね……」なんてやりとりのある状況を皆で作れれば、すごく面白い芝居創りになるんじゃないかなと思います。(岡本)健一とは前にも共演したけど、自分の考えてきたことをまっすぐぶつけてきてくれるし、こっちから投げたものもちゃんと受け止めて、返してくれる。お互いよく分かっているし、なんの心配もしていません。
ナチスを題材にした作品なんていうと、日本のお客さんは、「難しい」「分からない」なんて、ちょっと引いてしまったりもするかもしれない。でも、だからこそ僕らは、まず純粋にこのドラマ、この会話の面白さを伝えなきゃいけないし、「『アルトナの幽閉者』って知らなかったけど、こんな面白いんだね」と思ってもらいたいんですよ。