エレクトーンで味わう『ジークフリート』 エレクトーン奏者 西岡奈津子&小倉里恵 インタビュー


ワーグナー『ジークフリート』の名場面集を2時間でお贈りする『ジークフリート』ハイライトコンサート。注目は、実力派日本人歌手が歌うこと、そして、オーケストラ・パートをエレクトーン2台で演奏することだ。とはいえ、オペラ・ファンにとってエレクトーンはあまりなじみのない楽器。エレクトーンでどのようにオペラを演奏するのか、しかもワーグナーのスコアを2人だけで演奏可能なのか、興味は尽きない。

公演で演奏する2人のエレクトーン奏者から話をうかがった。


<ジ・アトレ4月号>

インタビュアー◎柴辻純子


『ジークフリート』はエレクトーン向きの作品です

  西岡奈津子

――今回の「ジークフリート・コンサート」は、エレクトーンの伴奏による上演も話題になっています。意外な組み合わせとも言えますが、お二人は、以前からオペラの伴奏に取り組まれていますね。

西岡 私はオペラを始めてちょうど20年くらいになります。学校公演では全都道府県をまわりました。これまで『カルメン』『椿姫』『こうもり』『蝶々夫人』といった有名なオペラから、あまり知られていないものまで、25、6作品を演奏しています。

小倉 私は8〜9年です。オペレッタも含めると10作品ほどになると思います。

――お客様の反応はいかがですか。

西岡 エレクトーンというと、昔の茶色の箱型の楽器のイメージが強いですから、まず楽器の音が出た瞬間に驚かれる方が多いですね。特にオーケストラ・ピットで演奏していると、最後までエレクトーンとは気づかない方もいらっしゃいます。

――オペラではエレクトーン2台で演奏することが多いのですか。

西岡 弦楽器とエレクトーン1台とか、打楽器が入ったりと、さまざまです。ただ2台ですと楽器同士の対話ができますし、演奏効果もかなり上がりますね。

――総譜を見てスコアリーディングをしながら演奏するとうかがいました。

小倉 基本的にはオーケストラのスコアを見ながら、移調楽器もその場で移調しながら演奏します。管楽器が多い作品は、移調が楽器ごとにバラバラなので同時に読むとき大変です。楽器の持ち替えの指示を見落として不協和音にならないように神経を集中させています。

――19世紀の作品はより複雑ですよね。

西岡 楽譜を読むという意味では新しい時代の方が厳しいですが、音色を作るのはモーツァルトの時代の方が難しいです。エレクトーンの特性として、プッチーニのような色彩感のあるオーケストレーションを再現したり、ダイナミクスが大きい作品の方が向いていますね。

――そもそもエレクトーンとはどのような楽器なのでしょうか。

西岡 まずパイプオルガンと同じようにフィート(エレクトーンでは音高と音色を作り出す機能)を重ねていくため、基本的にカバーできない音域はなくて無限です。奏法も、パイプオルガンとほとんど同じ感覚ですね。

小倉 手鍵盤2段と足鍵盤がありまして、足鍵盤はフルベースで2オクターヴ、今回は1オクターヴ半の楽器で演奏します。足鍵盤はオペラでは低音楽器の旋律を弾くこともありますし、アレンジによっては持続音を担当するなど、いろいろな使い方をします。

――パイプオルガンではストップ(音栓)で音色の操作をしますね。

西岡 エレクトーンにもストップのような機能をもつ装置が16個付いていて、そこに場面ごとの音色の組み合わせを入れておき、それをどんどん変えながら演奏していきます。

小倉 だいたい1本のオペラで40個くらい用意するので16×40種類、それを準備して、演奏しながら切り替えます。

――そうすると演奏するまでの準備が、他の楽器と違って大変そうですね。

西岡 編曲が終わって、ストップが全部準備できたところから、やっと他の楽器と同じスタートラインに立てます。そこまでにどうしても時間がかかってしまいますね。

――ところでお2人とも、ワーグナーは今回が初めてですか。

西岡 オペラの作品として取り組むのは初めてです。でも弾いてみて、意外とエレクトーンに合うなというのが第一印象です。特に『ジークフリート』は、メルヘン的な要素とか、大蛇の場面とか、遊びどころもありますよね。具体的な情景を伝えるのが得意な楽器なので、エレクトーン向きの作品だなと思いました。

小倉 これまで『タンホイザー』から数曲を抜粋とか、『パルジファル』からというのを歌手の方と一緒に演奏したことはありますが、オペラとしては初めてです。



魅力的な音楽にするには音の「引き算」が大切

小倉里恵

――『ジークフリート』の準備はどのように進めているのでしょうか。

西岡 大まかに私が弦楽器、小倉さんが管楽器と分担を決めて、各自で編曲を考えます。その後、2人で音出しをしながらスコアを見てお互いにチェックしていきます。小倉さんの管楽器は複雑ですし、弦楽器もディヴィジの指示が多くてチェロが8パートに分かれたり......。場合によってはパート・チェンジすることもあります。2人しかいないのでワーグナーのスコアの音をすべて網羅することはできませんが、要となるものが拾えているかを確認していきます。

小倉 音色は、第2幕までで5〜60個くらいなりました。それに16かけるわけですから相当の数になります。ワーグナーのスコアは緻密に書かれ、音の数も多いので、そこから何を浮き立たせるかということを考えながら準備をしています。

――ワーグナーのスコアを2台の楽器で音色を考えていく作業は大変ですね。編曲の秘訣はありますか。

西岡 エレクトーンは、オーケストラの音色のようなものが出てしまうがゆえの制約があります。そのままシミュレーションするだけでは代用楽器で終わってしまうので、楽器ならではアレンジを入れるように考えます。

小倉 そのためには全部の音を鳴らすのではなく、引き算をちゃんとしないとエレクトーンとしては魅力的に聴こえないんですよ。つまり、物足りなくならないように引き算をどのようにするか、そのためにはどの音を一番上に持ってくると〝心地よく響く〞かというところには特に気をつけています。

西岡 先日、指揮者の城谷正博さんと一緒に第1幕の弾き合わせの稽古をして、そのときオーケストラだと本来聴こえないような音までしっかり弾いていたので、城谷さんに「そんなパートあった?」と言われてしまいました(笑)。それはオーケストラでは鳴っているけれども音として認識されない音だったようで、まだ引き算が足りないなと思いました。

――すでに指揮者との稽古も始まっているのですね。

西岡 城谷さんには準備段階から入っていただいているので心強いです。早く準備を終えて練習に入りたいです。

小倉 エレクトーンは演奏以外の面で気にしなければいけないことが多く、ストップの変更も一個間違えるとおおごとになってしまいます。そのためにも早い段階から音色の選び方、音楽の作り方も城谷さんと密に打ち合わせさせていただけるのがとてもありがたいですし、しっかり準備したいです。

――最後に公演に向けてメッセージを。

西岡 電子楽器でオーケストラを表現することをいぶかしく思う方もいらっしゃるかもしれませんが、オーケストラの縮小版としてではなく、また別のものとして聴いていただきたいです。城谷さんとも相談中ですが、リアルな楽器にはない音も使って表現していきたいと思っています。

小倉 緊張していますが、新国立劇場で演奏できることはとても光栄です。以前、ワーグナーを演奏したとき、エレクトーンには難しいなと思いましたが、『ジークフリート』は、楽器にとても合っています。音楽もパズルのようにライトモティーフ同士が組み合わせされ、「あっ、ここにいた!」って(笑)。弾いていて発見がありますし、とても楽しいです。それがお客様に伝わればと思っています。

<プロフィール>

西岡奈津子(にしおか なつこ)

聖徳大学附属高校音楽科、東京コンセルヴァトアール尚美卒業。二期会、藤原歌劇団、オペラアーツカンパニー等の音楽スタッフとして全国各地にて活動。'06年から韓国でのオペラ普及の為のフェスティヴァルに度々招かれ、演奏・指導に尽力。韓国国立劇場、室内歌劇場でエレクトーン伴奏を務めた。現代音楽の分野では新作初演から録音、編曲では組曲《カルメン》ピアノ編曲版を出版(全音楽譜出版社)など多彩な活動を展開している。

小倉 里恵(おぐら りえ)

国立音楽大学応用演奏科卒業。ジャパンエレクトロニックオーケストラ、セブンブリッジオーケストラ、オペラ文化庁公演等に参加。演劇ユニットやパフォーマンス集団への楽曲提供をはじめ、オブジェとして舞台に参加。Tokyo MX 系列『BanG Dream!3rd Live 』キーボード指導。テレビ朝日 戦後70年ドラマスペシャル『妻と飛んだ特攻兵』ハーモニカ吹き替え。フジテレビNONFIX『僕たち女の子』テーマ曲制作。ドキュメンタリー映画『アヒルの子』音楽担当。東京都立川市よさこい『シャンコ立川』アレンジ参加。ネットTV『Borderless!!』出演等幅広く活動中。

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