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「夕鶴」指揮 大友直人 インタビュー

日本オペラの傑作『夕鶴』を指揮するのは、大友直人。

近年、日本人作曲家の新作オペラの上演で高く評価されている大友が、古典的名作を名歌手たちとどのように上演するか、期待が高まる。

新国立劇場のピットに登場するのは10年ぶり、『夕鶴』を指揮するのは初という大友に、公演への思いを聞いた。

インタビュアー◎柴辻純子(音楽評論家)

<ジ・アトレ4月号より>

作品に込められた日本人作曲家としての思いと理想を
現代の我々も深く考えなければいけない


  

――『夕鶴』を指揮なさるのは、今回が初めてとうかがいました。

大友 日本の我々の先輩も同僚も、多くの音楽家たちがこのオペラの上演に携わってきたわけですから、その仲間に加われることをを嬉しく思います。これまで團伊玖磨さんの作品は、1991年に大阪センチュリー交響楽団(現、日本センチュリー交響楽団)の委嘱作『飛天繚乱』の初演と、数年前に管弦楽組曲『シルクロード』という大作を指揮しました。生前の團さんと直接深いお話はしませんでしたけど、『飛天繚乱』のときは、リハーサルからいらして、紳士然として存在感がありましたね。

 團さんは、『夕鶴』もそうですが、オーソドックスな作曲技法に根差した、安定感のある作品を残されました。そしてそこはかとなくアジアのテイストを感じますよね。ハーモニーは、おしゃれな近代的な和声ですけど、旋律には東洋的なものが多用されています。『シルクロード』は、1950年代に作曲されましたが、團さんは、若い頃から、日本も含めてアジアから発信することを意識されていて、そうしたものを積極的に自分の創作のなかに取り入れ、オリジナリティのある作品を書かれてきました。

――『夕鶴』は、團さんの第1作となるオペラで、現在まで800回以上上演されています。

大友 それにはいくつか理由があると思います。音楽が素晴らしいことは大前提ですが、台本が素晴らしいことと、オーケストラも二管編成でコンパクトですね。この3つのことは、実はオペラではとても大事なことで、上演しやすいというのは、オペラが広がっていく重要なポイントです。実際の上演の難度が高すぎて現実的な上演に結びつかないことがあることを考えると、『夕鶴』はヒット作につながる要因をすべてクリアしている作品だと思います。

――これまで日本人のオペラを数多く指揮されたご経験から、『夕鶴』はどのような特徴があるとお考えですか。

大友 すべてが自然に流れていくという意味で、團さんは、お手本になる、ひとつのモデルを作られたと思います。最初に子供の合唱が出てくるのは、とても印象的な、音楽的に素晴らしい幕明けです。そしてオーケストラが情景を描き、心理的な部分を語ります。これも、シンプルなオーケストラ編成から非常に効果的に紡ぎ出されます。すでにこの時点で、かなり完成されたスタイルを確立されていたことは間違いないですね。

――その音楽に、指揮者としてはどのようなアプローチをされるのですか。

大友 音楽のなかに込められているドラマをどれだけ魅力的にいきいきと蘇らせることができるのか、指揮者の仕事はそれに尽きます。オペラは、演出もひとつの要素ですが、音楽だけでドラマが作れるように専念したいと思います。それからやはり、日本語によるオペラというのは、我々にとって一番やりがいのあるジャンルだと思っています。母国語の言葉を音楽にのせることは、言葉に内在している深い共感が、自然と出てきますからね。歌手の方々の言葉が、自分のものとして生きてきます。

――そうするとこのオペラは、日本語ということから考えると、日本人以外が歌うのは難しいのでしょうか。

 そういう部分もありますが、そこにこだわりすぎない方が良いと思います。というのは、このオペラは、早くから国際的な発信をしています。1956年に英国のブージー&ホークス社と楽譜の出版契約を結び、翌年には日本のオペラとして初めてヨーロッパ公演が行われました。日本人が戦後まもなくブージーと契約を結んだことも驚きですし、海外の歌劇場での上演の可能性も、ずっと探っていたのではないでしょうか。

2011年「夕鶴」公演より 撮影:三枝近志

 團さんの世代の作曲家は、戦争の時代を生き、自分自身のアイデンティティを深く掘り下げていきました。日本とは何なのか、日本人とは何なのか、自分たちがいわゆるヨーロッパの音楽を作り、奏でること、そしてオペラという西洋の舞台芸術を作るというときに、そこにどのような思いと理想を掲げて作品を作るかということを考えていました。アジア人作曲家としての意識やそこに込められた思いは、現代の我々も深く考え続けなければいけないと思っています。



プッチーニとトスカニーニのように
作曲家とやりとりしながらオペラを指揮したい

――ところで大友さんご自身は、どのようなオペラがお好きですか。

大友 小学生の頃、NHKが海外から歌手たちを招いたイタリア歌劇団の公演で初めてオペラを観ました。『リゴレット』『トゥーランドット』『椿姫』『シモン・ボッカネグラ』、外来の歌手でオーケストラはN響が受け持つあの事業は、本当に素晴らしかったですね。『リゴレット』のマントヴァ公爵役がパヴァロッティで、その第一声を客席で聴いて、本当にびっくりしました。それでオペラに興味が出て、モーツァルトもプッチーニも、それからワーグナーも好きになりました。

 そして20年ほど前、バイロイト祝祭劇場で『指環』と『トリスタンとイゾルデ』を観ましたが、そのときのオーケストラの音は、まさにワーグナーの音がしているんですよ。新しいオペラを書いて時代を牽引したプッチーニと、私が若いときはまだ生きていたトスカニーニが一緒に仕事をしていたり......。そういうことを肌で知ると、オペラについては、日本人の作品に自分の活動を特化しようと考えるようになりました。プッチーニとトスカニーニではないですけど、作曲家と直接やりとりするということでは、最近は、三枝成彰さんや千住明さんのオペラを指揮しました。

――最後に、新国立劇場は久しぶりのご登場となります。

大友 2006年の三木稔さんの『愛怨』以来ですから10年ぶりです。新国立劇場は、音楽作りをする環境が整っていますので、劇場での仕事をとても楽しみにしています。



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