新制作オペラ「椿姫」アントニオ・ポーリ インタビュー

フランスの気鋭ヴァンサン・ブサール演出による新制作『椿姫』のアルフレードを歌うのは、

今注目のイタリア人若手テノール、アントニオ・ポーリ。
ムーティの薫陶を受けたポーリは、研究熱心でレパートリーを多彩に広げているが
そのなかでアルフレード役は、これから何度も大切に歌っていきたい役だという。
アルフレード役について、そしてこれまでの活動について、熱く語った。



<下記インタビューはジ・アトレ12月号掲載>

  

アルフレードは、高音だけでなく
繊細で演劇的な表現を求められる役

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     アントニオ・ポーリ

――ポーリさんは初めて新国立劇場で歌ってくださいますが、日本へはすでに何回かいらしていますね。

ポーリ(以下P) はい。まず、カルメラ・レミージョさんのリサイタルで。そして、ミラノ・スカラ座、ローマ歌劇場の日本公演で歌っています。実は合気道を習っているので日本を身近に感じています。合気道は数年前から始めて、いま四級なんです。

――おや、そうなんですか。始めたきっかけは?

P 武道に興味を持っていたので、ローマでイタリア人の先生の道場に行ってみたら性に合いまして。世界中を旅していますけれど、どこへ行っても道場を探して通うようにしています。

――そうでしたか。そんなポーリさんが新国立劇場で歌ってくださるのが『椿姫』のアルフレード役です。

P 私はアルフレードを演じるのがとても好きなんですよ。この役には、歌手が自分の力量を発揮するべきたくさんのポイントがあります。たとえば、抑えた小さい声で歌う箇所、つまり楽譜にが記された箇所が随分ありますし、とても速いテンポで歌ったり、ヒロイックな表現を求められたり。第2幕冒頭のアリア「燃える心を」は特に有名ですが、これは実は『イル・トロヴァトーレ』のカヴァレッタに歌い方がよく似ています。『椿姫』『イル・トロヴァトーレ』『リゴレット』はテノールの能力が問われる作品で、高音域を誇張した表現などは議論の的になりますが、それよりも実は、繊細で演劇的な表現を求められるのです。ですから、アルフレードの役はとてもやりがいがあります。ラストシーンを思い出してください。アルフレードは病身のヴィオレッタを目の当たりにし、激しく葛藤します。そして最後になって、父ジェルモンとヴィオレッタとそして自分との心が結ばれ、和解するけれど、しかし時すでに遅し、という深いドラマが、アルフレードの内面にも展開しているのですから。

――ただの「恋する若者」ではないのですね。

P はい。彼は非常に気持ちのしっかりした人物ですよ。他の男たちはみなヴィオレッタを「娼婦」として見るのに対し、彼は頑として彼女の「心」を求め、「心のない、ただ享楽的な恋なら、いらない」と言うのです。もちろんこれは恋するがゆえですが、しかし、強い人でなければ言えません。そして彼女自身の「良き生き方」を求め続けます。私はこの若者の役がとても好きです。東京で歌う直前にヴェローナのテアトロ・フィラルモニコでもアルフレードを歌うので、日本の皆さんによりよい演技を見ていただくためにも、しっかりイタリアで歌い込んで行きますね。

――楽しみにしております。ところでポーリさんは、これまでアルフレード役はまだそれほど歌っていませんね?

P そうなんです。大劇場では2012年にフェニーチェ歌劇場で歌い、そして今言ったヴェローナ、そして東京です。昨年あたりから『ファルスタッフ』のフェントン役もオファーをいただくようになりましたが、アルフレード役とフェントン役は、若い時の通過点としてだけではなく、今後しばらく歌い続けたい役です。どちらも、歌手にとっては自己鍛錬を必要とする、やりがいのある役だからです。先日シカゴで、マエストロ ・ムーティの指揮によるコンサートに出演してアルフレードの「燃える心を」を歌ったのですが、改めて感じたのは、人物のヒロイックな決意がきちんと表現できたか否か、歌唱によって怖いくらいわかってしまうんですね。ですから、演技力のバロメーターになる役でもあります。ムーティ氏の指導は充実していました。ピアノを弾きながら、歌唱の細部にたくさんの指示をくださいました。アルフレードは、勉強し甲斐のある、長く歌いたい役だと思いました。

――父ジェルモン役のアルフレード・ダザ氏とは面識がありますか?

P いいえ、お名前は存じているのですが。共演が楽しみですよ。

――父と息子の関係も『椿姫』の大切な要素ですね。

P ヴィオレッタとジェルモンの間でどんな対話があったかを知らぬまま、第2幕でアルフレードが彼女を罵倒する場面、その直後の後悔......彼らの親子関係が、このドラマティックな展開の鍵にもなっています。私の考えでは、孤独な少女時代を過ごしたであろうヴィオレッタは、ジェルモンをどこか自分の父親のように感じていたのでは。だから彼女は、苦しみながらも彼の要求を受け入れたのだと思います。


マエストロ・ムーティからの教えは
私にとってとても大きな存在です

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「椿姫」リハーサル風景より

――ポーリさんはまだお若いのに、実に幅広いレパートリーをお持ちですね。注目すべきは、イタリア人でありながら、ドイツ系のレパートリーも柔軟に身につけていること。どのような勉強をしたのですか?

P 自分で言うのもなんですが、実はドイツ語は上手なんですよ。ザクセン州立歌劇場に所属した時期があるのです。2008年でした。なのでドイツで生活したことがあります。さらにもっと前に、故郷のヴィテルボで最初に声楽の手ほどきをしてくださった先生がドイツ人で、ドイツ語の音楽を次々に聴かせてくれたので、ドイツの歌曲やオペラに自然に馴染むことができました。私はそもそも言葉の勉強が大好きなのですよ。ドイツ語は詩的な味わいのあるとても美しい言葉です。つい先日もロンドンでのリサイタルの最初の曲はベートーヴェンとシューマンにしました。ドイツ人の指揮者や歌手の方たちと仕事をする機会が比較的多いので、今後ももっと研鑽を積みたいです。
 さらにもうひとつ関心を持って取り組んでいるのが、ロシアのレパートリーです。こちらも少しずつ身につきつつあります。来年の録音では、ロシアとドイツのレパートリーで構成する予定です。

――心に残っている思い出、特別な出会いがありましたら教えてください。

P 言うまでもなく、マエストロ・ムーティは私にとってとても大きな存在です。ムーティ氏に出会う少し前、私は、歌手としてどのような道を進むべきか、はっきりしたヴィジョンを持てずに悩んでいましたが、指導者としてのムーティ氏からのいろいろな教えは、その後の私の足取りをしっかりさせてくれました。舞台での思い出もたくさんあります。私の『愛の妙薬』のネモリーノ役デビューはローマ歌劇場だったのですが、ムーティ氏はオペラの流れを重視し、「人知れぬ涙」では観客の拍手を待たずに曲を続けるよ、とおっしゃっていたのに、客席が盛り上がってアリアの終わりを待たずに拍手が始まってしまったのです。そうしたらマエストロはいったん指揮台の椅子に座り、拍手が鳴りやむまでそのままにしてくださいました。時間にしたらほんのわずかな出来事ですが、この思い出は一生私の心に残るでしょう。また、彼の素晴らしさは、どんな歌手と仕事をするときにも決して自分の信念を曲げずに、楽譜に書かれている音楽そのものに真摯なエネルギーをすべて注ぐことです。その姿から若い私たちが学ぶことは計り知れません。彼は、私たち歌手に、音楽についての優れた指導をするだけでなく、その人の持つ力を自身も驚くほど大きく羽ばたかせる、そういう力のある人です。

――そんな教えを受けたポーリさんのアルフレード、楽しみにしております。

P みなさんの前で歌える春が待ち遠しいです。ぜひ私のアルフレードを聴きにいらしてください。


 

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