新制作オペラ「椿姫」ベルナルダ・ボブロ インタビュー

『椿姫』の主役ヴィオレッタを歌うのは、ベルナルダ・ボブロ。
ウィーン・フォルクスオーパーの日本公演にも出演したことのある彼女は、
2012年、ロイヤル・オペラの『椿姫』で
ヴィオレッタ役に代役として急遽出演して、大きな話題となった。
歌はもちろんのこと、演技の評価も高いボブロが、
ブサールの演出するヴィオレッタをいかに表現してくれるか、注目が集まる。



<下記インタビューはジ・アトレ11月号掲載>

  

原作のイメージを反映させつつ
ヴェルディが描いたヴィオレッタ像を演じたい

ボブロ Ms Bernarda Bobro 写真 20141025.jpg
     ベルナルダ・ボブロ

――ボブロさんのヴィオレッタといえば、ロンドンのロイヤル・オペラでの2012年1月のヴィットリオ・グリゴーロとの共演が記憶に新しいところです。日本のオペラ・ファンもあの公演であなたの存在を知った人が多いようで、とても評判になっていました。どのような経緯で出演することになったのですか?

ボブロ(以下B) ロイヤル・オペラで『椿姫』を歌う予定のポプラフスカヤさんが体調を崩しているので、念のために代役を立てたいという依頼が舞い込んできたのです。ちょうどシュトゥットガルトでこの役を歌っていたので、急遽公演の合間にロンドンへ飛んでリハーサルに1日参加し、結局、ロンドンの最後の2公演を歌うことになりました。シュトゥットガルトとは異なる演出でしたが、ロンドンは古典的なものだったので頭の中を切り替えることができました。指揮者とは簡単なリハーサルができましたが、相手役のグリゴーロさんとは本番が初顔合わせでした。ところが彼も翌日病気で降板してしまい、最終回では別のテノールと歌うことになって大変でした!

――ヴィオレッタ・ヴァレリーという役柄で最も共鳴するところ、感銘を受けるところはどんなところですか?


B ヴィオレッタはソプラノ歌手にとって特別な役です。三つのタイプの声を必要とするからです。第1幕では華やかで軽やかな声、第2幕ではジェルモンとの対話の場面などでドラマティックな声、そして第3幕では壊れそうな繊細な声が求められる難役です。最後の死ぬ場面は、声量を極力抑えて囁くように「声なき声で」歌わなくてはいけないので一番苦労します。自分がもっとも共鳴するのは最終幕のヴィオレッタの旋律です。ヴィオレッタは艶やかな女性として描かれる場合が多いですが、デュマの原作を読むと全然違いますね。綺麗に着飾っていても所詮卑しい身分の高級娼婦です。でも、絶世の美女だった。こうした原作のイメージをオペラのヴィオレッタ像に反映させつつ、ヴェルディがそこに加えた「心優しいゆえに悲しい運命をたどる薄幸の女性」を演じたいと思っています。

――ヴィオレッタの美しいアリアのなかでも一番好きな曲は? 

B 「さようなら、過ぎ去った日よ」でしょうか。短い旋律が繰り返されるなかで複雑に揺れ動く主人公の感情を表現しなければいけません。有名な第1幕のヴィルトゥオーゾなアリアよりも難しい、シューベルトの歌曲に通じる部分があります。ヴェルディはソプラノのアリアにオーボエのソロをつけるのが好きで、このアリアもオーボエとソプラノが対話する形で書かれています。重くて暗い雰囲気を描くときはイングリッシュ・ホルンを好んで用いるなど、ヴェルディは管楽器に対して具体的なイメージがあるのですよ。『リゴレット』のジルダもそうです。

――先ほどヴィオレッタは「3つのタイプの声が必要」とおっしゃいましたが、リリカルな声やドラマティックな声など、声のコントロールをどのようにしていますか?


B 「ドラマティック」を「大きな声」と同義にとらえがちですが、それは間違っています。譜面を正確に読むと、ドラマティックな箇所の7割がピアノで書かれているのですよ。ヴィオレッタが思い切りフォルテで声を張り上げなくてはいけないのは死期を悟って最後に「神よ!」と叫ぶところくらいで、2小節にわたってフォルテと記されています。でもそれ以外は全部ピアノ。付点音符や短く連打される音、発せられる言葉が劇的な効果を生むのであって、音の強弱は関係ありません。序曲の冒頭の静かなトレモロが紡ぎだすドラマティックな緊張感が全てを語っています。ヴェルディが書いたとおりに歌えば、自然に声はコントロールでき、最後まで歌えるのです。


ウィーン・フォルクスオーパーでは
さまざまな経験を積むことができました

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2012年英国ロイヤルオペラ「椿姫」より

――レパートリーについてうかがいたいのですが、2006年のザルツブルク音楽祭では16歳のモーツァルトが作曲したオペラ『シピオーネの夢』という非常に珍しい作品に出演されていますね。


B はい。モーツァルトのオペラ22作品全てを上演するというとても興味深いプロジェクトでした。主役級のソプラノとテノールがそれぞれ3人も必要なオペラ・セリアで、どのパートも非常に器楽的に書かれています。なかでもシピオーネ役(テノール)が難役で、『魔笛』の夜の女王も真っ青になるほどの超絶技巧を求められます。私は比較的リリカルなフォルトゥーナ役を歌いましたが、素敵な経験でした。モーツァルトは大好きな作曲家なので、珍しい作品であっても飽きることはありません。

――ボブロさんはオーストリアの隣のスロベニアのご出身ですが、日本でもマリボール国立歌劇場がたびたび来日していて、オペラが盛んな国という印象があります。オペラ歌手を目指したきっかけは?


B 子供の頃からツアー公演なども定期的に行っている有名な合唱団で歌っていたので、最初から本格的な発声訓練を受けました。声楽の先生の勧めでギムナジウムから普通校と音楽学校の両方に通うようになり、卒業後、オーストリアのグラーツ音楽大学に進学しました。デビューはクラーゲンフルトの劇場で、オペレッタ『微笑みの国』のミー役を歌いました。そこで知り合ったエージェントにウィーンのフォルクスオーパーのオーディションを受けるように勧められ、2000年にアンサンブル歌手として同劇場と契約し、2005年にフリーになるまで様々な経験を積むことができました。年間300日も稼働しているオペラハウスですから、レパートリーを広げるという意味でも格好の学び場でした。

――この夏はブレゲンツ音楽祭に出演されましたね。湖上オペラの公演はいかがですか? また世界の主要なオペラ劇場で活躍中ですが、思い出深い劇場などありますか?


B 湖上オペラは夏ならではの楽しさがあります。野外でしかできない奇想天外な演出もあって、歌手は大変ですけど(笑)。野外劇場ではありませんが、休憩中にお客様がピクニックを楽しむ英国のグラインドボーン音楽祭も独特の雰囲気がありますね。そしてやはり私にとって、ウィーンのフォルクスオーパーは特別です。ウィーン人の夫が同劇場管弦楽団のオーボエ奏者なので、今でも時々夫婦で「出勤」していますが、お互いに本番直後はその日の公演について触れないようにしています(笑)でもオーケストラの立場から私を聴いてくれる夫の意見はとても貴重です。

――趣味やリラックス法などありましたら、教えてください。

B 読書とサウナ、スパが大好きです。夫には「少し運動しろ」と言われているんですが、億劫で......(苦笑)。最近は「あみぐるみ」という日本発祥の編み物人形づくりに凝っていて、姪っ子のために編んでいます。

――最後に、あなたのヴィオレッタを待ち望んでいる日本のオペラ・ファンにメッセージを。


B 日本のみなさんとの再会を楽しみにしています。生の舞台をぜひ聴きにいらしてください!


 

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