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「セビリアの理髪師」ロジーナ役 レナ・ベルキナ インタビュー

後見人ドン・バルトロの厳しい監視もなんのその。

機転を利かせて、明るくたくましく、恋路を突き進むロジーナを演じるのは、レナ・ベルキナ。

ウクライナ出身の彼女は、バロックや、モーツァルト、ヴェルディ、チャイコフスキーなど幅広いレパートリーを持つが、特に高評を得ているのがロッシーニ。

「東京の皆さんに聞いてもらいたい!」というロジーナ役への思いを語る。



<下記インタビューはジ・アトレ7月号掲載>

新たな人生を進む機会を求め、それを実現させる
ロジーナは、とても魅力的な女性

 2013年「フィガロの結婚」より

――ベルキナさんの新国立劇場初登場は、2013年の『フィガロの結婚』ケルビーノでした。覚えていらっしゃいますか。

ベルキナ(以下B もちろん! マドリードとウィーンでもケルビーノを歌ったのですが、新国立劇場のものが最高でした。舞台、スタッフ、キャスト、なにもかも一番印象に残って素晴らしい思い出です。

――10代から舞台に立たれていたとのことですが。

B ええ、でもそれは本格的な舞台ではなく、教育的なレベルのもので、メトロポリタン歌劇場の舞台に立つのと比較できるものではありません(笑)。

 14歳のときに声楽の先生について本格的なレッスンを始めました。その時に年齢の割に声がとても成熟していると言われて、バロックや古典作品を始め、同年齢の生徒が与えられているよりも難しい作品を早い時期から歌ってきました。

――そしてキエフ音楽院で声楽とピアノを学び、コンクールでも高い評価を得て、ライプツィヒ歌劇場にいらっしゃったのですね。

B バッハの街ライプツィヒに移り、バッハ・フェスティバルでカンタータを歌い、その同じ夏にヘンデルの生まれたハレで開催されるヘンデル・フェスティバルで『フロリダンテ』でデビューを飾りました。フロリダンテは私にとって初めての大役で、2か月で7つのアリアを習わなくてはなりませんでした。容易ではありませんでしたが、とても多くのことを学びました。なによりもライプツィヒは特別な雰囲気の街であり、レパートリーの理解に大きな力となりました。

――このようにバロック音楽で高い評価を得ながら、今はベルカント歌手としてもとても高い評価を得ていますが、ベルカント・オペラとの出会いはどのように?

B 実は、ベルカント・オペラの初めての役がロジーナでした。16回も公演があったのですが、当時は24歳で、まさに最高のタイミングでこの役が来たと言えます。素晴らしい先生に出会い、ベルカントを実践するタイミングとしては最高のものだったのです。その次の大きな役がチェネレントラ。これは世界中で歌いました。

 2012年のデュッセルドルフとデュイスブルク劇場での『セビリアの理髪師』は、とても変わったプロダクションでした。はじめ、ロジーナは蝶で、フィガロはハエなんですよ! 後半で人間に変わりましたけれど。演出はクラウス・グートで、彼は二言目には「なぜ?と聞くな! ただ言うとおりにやってくれ」と言っていました。というのは、歌手がみんな、「なぜこうしなくてはいけないの?」と口々に聞いたものですから(笑)。大好きなプロダクションとは言い切れませんが、今の私があるのは、あの経験のおかげと言ってもいいほど、多くのことを学びました。

――そんなロジーナを新国立劇場で歌っていただくのですね。

B 私にとってロジーナはとても魅力的な存在。もちろん若さゆえの魅力もありますが、それだけではありません。とても頭が良くて、『チェネレントラ』のアンジェリーナとは大きく違います。ロジーナは自分の欲しいものがわかっています。そして、それを手に入れるにはどうしたらよいのかも。もちろん思いやりのある女性であり、伯爵がすぐ恋に落ちるくらい魅力的でありながら、彼女は伯爵だから彼を好きになった訳ではありません。そし

て後見人の家を早く出たいとも思っていました。彼女は積極的に新たな人生を進む機会を求め、それを実現させるのです。

――ロジーナのアリアは、ベルキナさんの最新のCDにも収録されていますね。

B ええ、ロジーナ役は歌い始めて五年になります。東京で皆さんにもぜひ聞いていただきたい役柄です。前回は少年役でしたから、女性役の私を見ていただきたいですね。女性の役を演じる方が好きなので、それを大好きな新国立劇場で、日本の皆様の前で歌えるのですから、今からすごく楽しみです。

憧れの歌手はマリア・カラス
彼女は私にとって理想的なベルカントです

「セビリアの理髪師」立ち稽古の模様

――ベルカントの魅力はなんでしょう。

B それはレガートです。そしてフレージングする中でのアクセントも。絹のようになめらかなレガートをお客様に聞いてもらいたいです。

 私が歌い始める前から今日に至るまで、常に憧れてきたマリア・カラスは、その意味では、私にとっては理想的なベルカントです。彼女の感情表現も私は好きですね。彼女の歌はとても自然、かつシンプルなようでいて、芯のしっかりした、聴く人の心にまっすぐ届くような説得力を持ちあわせているのです。

 また、個人的にはベルカントのカデンツァが大好きです。カデンツァを通して自分の求める音楽的嗜好を見せることができますから。フェルマータひとつで世界を広げることができるのです。

――ロッシーニ・オペラの聖地ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティバルで『パルミラのアウレリアーノ』にも出演されましたね。この作品の多くの曲が『セビリアの理髪師』に転用されています。

B この演目が上演されるのは、音楽祭の長い歴史の中でも初めてのことでしたが、それはロッシーニが唯一カストラートのために書いた作品だったことにも起因しています。ジョバンニ・バッティスタ・ヴェッルーティという歴史的なカストラートが初演でアルサーチェ役を歌ったのですが、今回その役にテノールでなくメゾ・ソプラノを起用することとなり、私にお話が来たのです。多くのロッシーニ歌手の中から起用されたことはとても名誉なことでした。アルサーチェ役は、タイトルロールのアウレリアーノよりも

歌う場面が多いのですよ。テノールのマイケル・スパイアーズをはじめとする、私より10年以上長いキャリアを持つ素晴らしい人たちとステージに立ち、彼らと対等の立場で演じることは、私にとって素晴らしい経験でした。

 ロッシーニ作品では、オペラ・セリアとオペラ・ブッファは違います。『セビリアの理髪師』はブッファですから、ユーモアにあふれ、演技もコミカルになります。でも『アウレリアーノ』や『オテロ』のようなオペラ・セリアでは深層心理に迫る深い演技が求められます。いずれにせよ、私は演技をするのが大好きなんです。もしも歌手になれなかったら、女優を目指していたと思います。オペラ歌手は、歌うことと演じることが同じくらいできないと、聴衆にアピールできませんから。

――今後歌いたい役、レパートリーに予定されている役等を教えてください。

B 来シーズン、初めてのカルメンに臨みます。他にも重要な役が控えていますが、やはりいつか歌いたいのは『ばらの騎士』のオクタヴィアンでしょうか。実はオーストリア訛りのドイツ語も話せるのですよ。

 それからオペラだけでなく、マーラーの『大地の歌』の公演も控えていて、そちらも勉強することがたくさんあります。私はベルカント、バロック、といった縛りを超えた幅広い音楽と常に接していたいのです。今の私はプライベートと仕事が一体になっていますが、それがまた楽しくて仕方ないのです。

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