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オペラ「アンドレア・シェニエ」タイトルロール カルロ・ヴェントレ インタビュー

己の信念と愛を貫く実在の詩人アンドレア・シェニエを通して、フランス革命の激動の時代を描くジョルダーノの傑作『アンドレア・シェニエ』。
主役アンドレア・シェニエを歌うのは、これまで新国立劇場で『トスカ』カヴァラドッシ、『アイーダ』ラダメスで絶唱を聴かせてくれた、カルロ・ヴェントレ。自身を「情熱的な男」と分析するヴェントレにとって、シェニエ役は感情にぴったりはまる役だという。相手役のマリア・ホセ・シーリとのウルグアイ・コンビで熱い舞台となりそうだ。



<下記インタビューはジ・アトレ3月号掲載>

理想のため、人々を救うためなら命もかける
シェニエは自分の信条にフィットする役です

  2013年「アイーダ」より

――ヴェントレさんは新国立劇場でこれまでプッチーニ『トスカ』、ヴェルディ『アイーダ』に出演してくださいましたが、今度はジョルダーノの『アンドレア・シェニエ』です。

ヴェントレ(以下V) はい、また違った作品を皆さんにお聴かせできるのは本当に嬉しいです。

――以前のインタビューでご自身のことを「ロマンティックで情熱的な男」とおっしゃっていましたが、アンドレア・シェニエはまさにそんなキャラクターです。しかもシェニエは実在の人物で、詩人でした。

V そうなんです。ロマンティックで心の広い人間、というのは、私自身の投影でもあると思っています。理想のため、そして人々を救うためなら命をもかける。自分の信条にフィットするものを感じます。

――ですが、歌う立場としては大変な役ですよね。各幕すべてにアリア、ロマンツァ、二重唱があり、まさに歌い通しです。

V たしかに重量級のオペラですよね。アリアを思いきり聴かせなければ!と頑張り、ひと息つかせてくれ、と思ったところに次は絶対はずしてはならない二重唱、かと思えば三重唱、コンチェルタート......ときます。第3幕のロマンツァ「そう、私は兵士だった」はつとに有名ですね。他の部分ももちろん力量が必要ですが、この第3幕の歌に比べるとやや目立たない。ですので「そう、私は兵士だった」で、どこまで皆さんを惹きつけられるか。おのずと力が入ります。

――そんなアンドレア・シェニエという役の魅力について、ヴェントレさんが感じていることを教えてください。

V アンドレア・シェニエ役には、全体の見せ方を心得たテノールが必要だと思います。他の作品の場合、例えば『トスカ』なら「星は光りぬ」、『アイーダ』なら「清きアイーダ」というように象徴的なアリアがあります。ですが『アンドレア・シェニエ』には、もちろん美しい楽曲はたくさんありますが、象徴的なキーワードがないんです。ですから主役のシェニエは、オペラ全体の流れを美しく見せる気概と力量とを備えている必要があります。テノールにはアリアやロマンツァがありますが、マッダレーナ役のソプラノにもアリア「亡き母は」があり、そして、バリトンのジェラール役には、オペラ・ファンによく知られているアリア「祖国の敵」がありますので、テノールは全編の緊張を途切らせることなく、かつ、ソプラノとバリトンの陰に隠れてしまわないように、賢く自己アピールをしなければなりません。しかしそこがこのオペラの面白いところだと思うんです。やはりテノールがタイトルロールなわけですから、その責任を果たさなければね。この力学そのものが『アンドレア・シェニエ』の鑑賞ポイントです。

――シェニエ役は過去にどこで歌いましたか?

V イタリアのボローニャ歌劇場、それから、ドミンゴさんの指揮でワシントン・オペラでも歌いました。ドミンゴさんからはとても貴重なご指導をたくさんいただきました。忘れられない舞台です。スペインでも1回歌っていますが、このときのジェラール役はホアン・ポンス氏でした。今回の東京が、私の4回目のシェニエになります。

――今回のキャストは、ヴェントレさんも、マッダレーナ役のマリア・ホセ・シーリさんも、ウルグアイのご出身。同郷人カップルです。

V ますますやる気が出ますね! ウルグアイは小さな国なのに、東京の舞台でコンビを組むなんて、貴重な機会です。

――ご自身のパートに限らず、『アンドレア・シェニエ』の最も聴きどころと思うところ、あるいは、ご自分がお好きな部分はどこですか?

V ジェラールのアリア「祖国の敵」が、実は私が最も好きな箇所なんですが、このインタビューの答えとしては、あえて、テノールの歌う部分はすべて聴きどころ、と言わせてください(笑)。公演にいらしたら、ぜひ、私が歌う最終幕のロマンツァ「五月のある美しい一日のように」に、じっくり耳を傾けてください!


来年は『オテロ』
武者震いがします

――ヴェントレさんは、技術確かな若々しい声と肉体のパワーをもち、キャリアが支える深みが滲み出てくる、今まさに充実の時期にいらっしゃる歌い手ですね。ご自身ではどのように感じていますか?

V 24歳のときにミラノ・スカラ座で『リゴレット』マントヴァ公爵役を歌う機会を得てから、21年が過ぎたところです。今年45歳。自分ではまだ「若い」と思います。身体的な衰えは感じませんし、ものごとに挑むとき、自然に意欲的になれます。ですが精神的にはもう「若者」ではない。むしろ芸を極めるための体験が積み重なってきたという自覚があります。本能や感覚だけに頼ることはもうありません。どんな歌唱も演技も、頭脳でいったんフィルターにかけるようになっています。おっしゃっていただいたとおり、今、若さと成熟の両方を備えた良い時期を迎えています。そのような歌唱で、皆さんにさらに多くのものを届けたいと願っています。

――2013年に『アイーダ』で新国立劇場にいらしてから、私たちは3年間ヴェントレさんのお姿を拝見していませんでしたが、その間になさった舞台で一番印象に残っているものは?

V ミラノ・スカラ座でウーゴ・デ・アナ氏の演出で歌った『イル・トロヴァトーレ』は素晴らしい体験でした。そして、皆さんにお会いしなかった間に、オテロ役にデビューしました。昨年、パルマの劇場で初めて『オテロ』を歌ったのです!大成功だったと胸を張ってご報告します。この役も自分にピッタリくるものを感じました。激情的な性格付けの箇所は、自分にマッチしています。歌い終わったあとの満足感はなんとも言えないものでした。それが独りよがりな満足ではなかったことが、その後、立て続けにオテロへの出演オファーが舞い込んだことで証明されています。

――来年、ヴェントレさんは新国立劇場でまさに『オテロ』を歌ってくださるのですよね。

V 武者震いを感じます。歌唱においても演技においても、テノール歌手にとってオテロ役は大きな挑戦を意味しますから。来年皆さんの前で歌う私のオテロを、ぜひ真正面から味わってください。パルマでの成功の手応えを、皆さんとも分かち合いたいのです。成功すれば、それは無限の喜びとなるでしょう。

――最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

V 初めて日本を訪ねてから20年が経過しました。日本での仕事が決まると、いつでもその日が来るのがとても待ち遠しいんです。皆さんのことを思い浮かべると、「また会えるんだ」という思いに心が膨らみ、明るく、温かくなります。とても自然な気持ちで、もっと上手に歌いたい、聴きに来てくださる方々に前回とは違ったもの、前回より大きなものを差し上げたい、と思うのです。皆さんは私を、さらに成長させてくださいます。『アンドレア・シェニエ』でお目にかかれる4月を、心から楽しみにしています。

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