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「アラベッラ」タイトルロール アンナ・ガブラー インタビュー

「アラベッラ」タイトルロールを歌うのは、アンナ・ガブラー。
ヨーロッパの有名歌劇場でR・シュトラウスやワーグナーなどドイツ・オペラを中心に歌い、特に昨年のバイエルン州立歌劇場「ニーベルングの指環」で好評を得ている実力派だ。
新国立劇場では、2011年「こうもり」ロザリンデ役での、美しい立ち姿と艶やかな歌声で魅了してくれた。
ガブラーが大好きな役と語るアラベッラは、今回が初挑戦。ついに歌う機会がめぐってきた喜びに満ちた声をお届する。

 


<下記インタビューはジ・アトレ1月号掲載>

 

 

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――ミュンヘン生まれでいらっしゃるガブラーさんは、小さい頃からオペラに関心を持っていたのですか? オペラ歌手になったきっかけは?

―ガブラー(以下G) 両親がバイエルン州立歌劇場の定期会員だったので、幼い頃からオペラに連れていってもらいました。初めて観たオペラは「魔笛」か「ヘンゼルとグレーテル」だったと思います。舞台に魅了されて、興奮して家に帰ったことを覚えています。その後、デビューしてから、同じバイエルン州立歌劇場で子供のときに観たのと同じエファーディングの演出で「魔笛」の第一の侍女を歌ったときは感無量でした。歌手になりたいと思ったのは十二歳頃でしょうか。両親はすぐに声楽のレッスンに通わせてくれました。

─ご両親は音楽家ですか?

G いいえ。熱心な音楽愛好家ですが、違います。でも母の曾祖父が作曲家でした。ミュンヘン大学音楽学部の創設者で、R・シュトラウスと同時代の人です。同じミュンヘンの音楽界で活躍していたので、お互いのことは知っていたはずです。狭い世界ですから。私が歌劇場に初めて行ったのは六歳頃ですが、父が指揮者のジョン・エリオット・ガーディナーと親しいので、コンサートには三歳くらいから連れていってもらいました。英語学者の父は若い頃ケンブリッジ大学で研究していて、同大学で学んでいたガーディナーと知り合い、それ以来の古い友人なのです。両親は州立歌劇場のアンサンブル歌手にも友人がいたので、兄と私はしょっちゅう舞台裏に出入りして自然に音楽好きになりました。

─ R・シュトラウスの魅力とは何でしょうか。あなたと同じミュンヘン生まれである作曲家の音楽に、同郷のシンパシーを感じることはありますか?

G 同郷のR・シュトラウスの作品にはバイエルン人特有の個性を感じることがあります。頑固なところとか、自分にも思い当たる部分があります(苦笑)。もちろんミュンヘンとは切っても切り離せない作曲家ですが、彼のオペラ作品の多くが初演されたドレスデンの街とも強い絆で結ばれています。ミュンヘン以上に深い関係かもしれません。ミュンヘン人は地元で大成するのが難しく、外で名声を得て初めて評価されるようなところがありますから。ただ母の曾祖父との縁もあり、私にとっては特別な作曲家です。学生のときからオペラだけではなく、歌曲もよく歌っています。本当に美しい名曲ばかりです。

――初めて歌ったR・シュトラウスのオペラは?

G 「エレクトラ」で、クリテムネストラの裳裾持ちの女役を歌ったのが最初です。たった一言発するだけでしたけれど(笑)。ワーグナーもR・シュトラウスも、最初はそういった小さな脇役を歌って徐々に大きな役をいただくようになりました。アラベッラはまだ歌ったことがなく、今度東京で歌うのが初めてです。大好きな作品なので、とても嬉しいです。

――楽しみです! では、あなたのアラベッラ観を教えていただけますか? どのようなアプローチをしていきたいと思っていますか?
 

G アラベッラは一見浮ついているようにみえますが、没落した家族を救えるのは自分しかいないことを理解していて、与えられた立場を従順に演じつつ、内心やけを起こしているところがある複雑な女性です。お金だけで相手を選ぶのであれば、マンドリカと出会うまでに知り合った裕福な求婚者のひとりとすでに結婚していたでしょう。どこかで「決断」しなければいけないと思いながら、最後の最後まで親によって強いられる運命に些細な抵抗を続けています。妹のズデンカは男の子として育てられたけれど素直です。でも彼女は違う。マンドリカに会って初めて異性に心が揺らぎますが、どう接したらいいのかわからない。不器用だから、ついわがままに振る舞ってしまう。そんな彼女の微妙な性格を一番理解し、案じているのが、妹のズデンカです。でもズデンカはまだ子供で向こう見ずなところがあるので、不安にかられて、焦って、とんだ混乱を巻き起こしてしまうわけです。

──アラベッラは大人の女性、ズデンカはまだあどけない少女だということでしょうか?

G アラベッラは妹より大人ですが、どこかまだ少女の面影を残していると思います。「ばらの騎士」の元帥夫人ほど人生経験を積んでいるわけではありませんからね。置かれている立場上、年齢よりも大人びた少女にならざるを得ないだけです。一家を背負って生きていかなくてはいけないわけですから、妹のように素直に振る舞うことができない。人に対しても自分に対しても終始冷静で、やや冷めているところがある。少年の恰好をしているけれど、〝恋する乙女?そのもののズデンカとは違います。

IMG_4186.JPG──マンドリカ役のヴォルフガング・コッホさんはあなたと同じミュンヘン音楽大学の出身です。彼とは共演したことはありますか? 

G 同じ大学の出身ですが、彼は少し先輩なので学生時代にはお会いしていません。でもすでに共演しています。ハンブルクの「神々の黄昏」で彼はアルベリヒ、私はグートルーネを歌って同じ舞台に立っています。昨年、ミュンヘンでもお互いに同じ役で共演していて、とても気の合う歌手仲間です。夫とも仲が良いので〝公認の仲?ということで、「アラベッラ」では素敵なカップルになれると思います!(笑)

──ご主人も音楽家ですか?

G 大学で化学を専攻した後、声が良かったのでいきなりチューリッヒ歌劇場にオペラ研修生に選ばれて、そこで研鑽を積んでからバリトン歌手として各地の歌劇場で歌っていましたが、お世話になった大学の指導教官に「化学の道に戻って博士論文を書き上げろ」と言われて、再び化学の世界に舞い戻ったという不思議な経歴の持ち主です。現在、医薬品会社の研究所の所長をしていますが、今でも発声練習をしていて、家ではよく歌っています。ヴォータンかマンドリカみたいな風貌なので、一緒にいるといつも私が〝歌手に同伴している妻?に間違われて困ります(苦笑)。

─楽しそうなご主人ですね! ところでガブラーさんは新国立劇場には2011年に「こうもり」で舞台に立たれていますね。日本の印象、そして「アラベッラ」に向けての抱負などをお聞かせください。
 

G 初めて日本で歌ったのは2001年、まだ学生だった頃で、バイエルン州立歌劇場のメンバーとして来日しました。ソリストとしての初来日が2011年の「こうもり」でしたが、日本の歌劇場がどのようなものなのか全く想像がつかず、リハーサルが始まるまで凄く緊張していたのを覚えています。でもいざ始まってみると、全てのことが驚くほどスムーズに運んで、心から楽しんで歌うことができました。オーケストラも素晴らしくて、その後、大植英次さんの指揮でベートーヴェンの「第九」でも共演しましたので、オーケストラとの再会も楽しみです。それから「新国立劇場の『アラベッラ』の衣裳が最高に美しかった!」と、初演で歌った同僚が感激していたので、今から楽しみにしています。


 

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