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「カルメン」タイトルロール ケテワン・ケモクリーゼ インタビュー

いま有名歌劇場で大活躍し、美声と美貌が話題の歌手ケテワン・ケモクリーゼが、メゾ・ソプラノにとって最も重要な役カルメンに初めて挑む。記念すべきロールデビューに選んだ舞台は、新国立劇場!世界のオペラ・ファンが注目するこの瞬間を見逃すな!



<下記インタビューはジ・アトレ8月号掲載>

 

 私の3つのデビュー 

特別な思いの新国立劇場「カルメン」 


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2011年パルマ王立歌劇場「セビリアの理髪師」より

――日本にいらしたことはありますか? 

ケモクリーゼ(以下K) いいえ、まだです。9月にミラノ・スカラ座日本公演「リゴレット」のマッダレーナ役を歌いますが、これが私の日本初体験になります。そして新国立劇場「カルメン」が2回目の日本になる予定です。 

――ケモクリーゼさんは、グルジアのご出身ですね。

K はい、トビリシ出身です。グルジアは私の学生時代にソ連から独立したのですが、その後約10年のあいだ、電力、ガス、水の供給すらままならない暮らしぶりで、市街地では内戦が続いていました。社会は困難のさなかでしたが、私自身は志を弱めることなく、興味のある勉強を続けました。ピアノをまず習い、美術学校で絵画も勉強したんですよ。ピアノを習っていた頃、音楽学校内の合唱団に参加してみました。この合唱団は国立の組織だったのですが、演奏会でソロ・パートを歌うことになって。すると、客席にいた私の母の隣の人が、「あのソリストの声は素晴らしいわね。オペラ歌手になる気はないかしら?」と言ったそうです。これがゴカ・カリヤウリ先生との出会いで、改めて先生に声を聴いていただいたあと、本格的に師事しました。2年後に音楽院の卒業試験に合格し、大学院まで進みましたが、その間、先生は素晴らしい指導をしてくださいました。 

――音楽院でどのような勉強を経て、デビューへとつながったのでしょうか? 

K 在学中から本格的な舞台に立ち、国内の有名な指揮者やオーケストラとも共演し、とても豊かな経験を積むことができました。2003年、ヨーロッパのコンクールの予選オーディションがグルジア国内で行われ、私はそれに通ったんですが本選に参加するには費用を工面しなければなりません。その頃の国内情勢は以前よりはいいとはいえ、個人の旅の費用などとても......という状態でしたが、あらゆる友人、親戚、近所の人に寄付をお願いしてコンクールに行くことができました。このコンクールで、ミラノ・スカラ座付属のアカデミアで学べる「スカラ座アカデミア賞」と、スペインのリセウ歌劇場の舞台に立てる「バルセロナ・リセウ歌劇場賞」をいただき、キャリアの転機となりました。そのすぐあとフランスの「トゥールーズ・コンペティション」でも賞をいただきました。 


 


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2011年マチェラータ音楽祭「コジ・ファン・トゥッテ」より

――スカラ座アカデミアでは何年お勉強を? 

K 約2年です。若い歌手にとって、とても魅力的な勉強の場所でした。大物先輩歌手たちが教えてくれたり、アカデミアの公演でそういう方々と共演する機会も多く与えられました。ルチアーナ・セッラさん、ミレッラ・フレーニさん、レナート・ブルゾンさんなど......。歌手だけでなく、ピアニストなども著名な方たちばかりでした。 アカデミアでは演技のクラスもありました。グルジアでもすでに学んでいたのですが、ミラノでさらに演技のテクニックも深めることができました。 

――さて、今回の「カルメン」はケモクリーゼさんにとって初めてのカルメン役だそうですね。 

K そうなんですよ! 本当に特別な思いが募ってきています。メゾ・ソプラノにとって非常に重要な役のロールデビュー、新国立劇場での劇場デビュー、そして本当の意味での私の日本デビューでもあります。「カルメン」はこの「3つのデビュー」が重なっています。今から身が引き締まります。
 カルメン役は以前から勧められていましたが、私は「ちょっと待って」と言い続けてきました。あまり急ぎ足でドラマティックな役柄へ移行したくなかったのです。私の今日までのメインレパートリーは、ロッシーニ、モーツァルトです。ですから、これまでの軽やかな歌唱法で得た知識を活用して、独特の、私にしかできないカルメンを歌いたい。そのためにじっくり練り上げる時間が必要でした。
 初役をいつ歌うか、その決断は難しいものですが、私はベストな状態で初役に臨める時期を見定めて決心しました。2014年1月という時期、新国立劇場という場所は、カルメン・デビューに理想的だと思いました。



カルメンは「自由な女」

ホセの感覚がわからなかったのです


――カルメンという女性について、演じる立場としてどう解釈していますか?

K 私の感じるところを話すと、彼女は、恋に関してはまったく普通の女性だったと思います。「女っぽい女」です。男の人が好きで、いつも自分のそばにいてチヤホヤしてくれる男性を求めています。きれいな女性ですから、愛されるために特に努力をしなくてよかったんです......ドン・ホセに出会うまでは。彼女はどんなことも自分の思い通りになると思いこんでいる。だからハバネラを歌うところは、大勢の男たちに見せるいつもの「媚び」となんら変わらない。でもホセは堅物でなびいてこない。そこで花を投げます。これは彼女から彼への「宣戦布告」だったのです。
 カルメンはホセを愛していたのか......正直なところわかりません。もちろん気に入ってはいたでしょう。ですが、彼女はあらゆる「責任」から自由な人間です。ホセのように「誰かのために牢屋に入る」というような責任感を、カルメン本人はまったく想像できません。カルメンのような社会的位置の女性には理解できないことなのです。

――生まれ育った環境が違いすぎるのですね。

K ええ。だからホセとうまくいかない苛立ちが続き、ホセと正反対の性格のエスカミーリョに安堵を感じることになります。ですがポイントは、カルメンは心の冷たい女なのではなく、むしろ情の濃い女だったとする解釈も可能だろうということです。ハバネラを歌うときにも、セギディーリャを歌うときにも、彼女の内面の熱っぽさが表れていると思いますね。ただ、のちに再会して2人で歌い出すと、手のひらを返したようになります。なぜなら、これまで一度も男から拒まれたことのなかった彼女が、ドン・ホセには初めて拒まれ、不機嫌になってしまう......自分の誘いを拒む理由が「兵舎に戻らなきゃ」ですものね。

Concert-Liceu of Barcelona.JPG――興味深い解釈ありがとうございます。ところで、理想としている「カルメン」歌手はいますか?

K う~ん、1人に絞るのは難しいです。歌手は100人いれば100通りの良さがありますし。どうしても1人というなら、やはりアグネス・バルツァさんでしょうか。あ、でもドン・ホセなら「絶対にこの人が好き!」というテノールはいます。プラシド・ドミンゴさんです!!

――そうでしたか。今回はドミンゴさんではありませんが、若くてフレッシュなガストン・リベロさんです。

K 彼とはまだ同じ舞台に立ったことはないのですが、評判はうかがっています。とても楽しみにしています。

――最後に、読者のみなさんにメッセージを。

K 新国立劇場で歌う日を待ちきれません。2年前の大震災のニュースにとても心を痛めました。立ち直りつつある皆様の前で、全身全霊を込めて自身のロールデビューをお見せしたいと思っております。





 

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