インタビュー&コラム

インタビュー

イェヌーファ役 
ミヒャエラ・カウネ

ミヒャエラ カウネ

注目の新制作、クリストフ・ロイ演出『イェヌーファ』は2012年にベルリン・ドイツ・オペラで初演されたプロダクション。主要なキャストも、ベルリン・ドイツ・オペラ上演時の歌手たちが、新国立劇場にやってくる。イェヌーファ役を歌うミヒャエラ・カウネもそのひとりだ。ベルリンでロイといかにして舞台を創り上げたのか、『イェヌーファ』のプロダクションと作品の魅力について語ってくれた。 <ジ・アトレ9月号より>

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2010年『アラベッラ』より ©三枝近志

心理劇のようなロイ演出『イェヌーファ』
演出と音楽が互いに支えあう素晴らしい舞台です

─バイロイト音楽祭をはじめ世界各地の劇場や音楽祭などにもひっぱりだこのカウネさん。1997年から長いことベルリン・ドイツ・オペラ専属歌手として活躍されていたのですね。

カウネ(以下K) ベルリン・ドイツ・オペラには2011年まで専属歌手として所属していました。同歌劇場には今も定期的に出演していますが、現在はフリーです。専属歌手だった頃からほかの歌劇場に客演したり、演奏会に出演したり、比較的自由にさせてもらっていたので、正直、当時と今の活動内容に大きな違いはありません。その頃不便だったのは、ほかの劇場に客演するたびに「休暇申請」を提出しないといけなかったことくらいですね。専属歌手は社会保障面での安心が得られるという利点もありますが、私はなにより、「マイホーム」と呼べる歌劇場でアンサンブルの一員として歌うのが好きだったのですよ。フリーになるのを長年躊躇していたのは、ベルリン・ドイツ・オペラという素晴らしい「家族」の一員であることに幸せを感じていたからです。

2010年『アラベッラ』より ©三枝近志

─ベルリン・ドイツ・オペラの専属歌手になったのはどのような経緯で?

K コンクールで優勝したのがきっかけで、当時、同歌劇場の総監督だったゲッツ・フリードリヒから直々に電話がかかってきたのです。「うちと契約しないか?」と。あまりにも唐突な展開に驚いて、最初は冗談だと思いました(笑)。新人があのような大きな劇場にいきなり入るのは多くの危険をはらんでいるのですが、幸い仕事仲間にも役にも恵まれ、超一流の環境で多くの経験を積むことができました。デビューはヘンツェ作曲『ホンブルクの王子』のナターリエ王女役でしたが、演出はフリードリヒ、指揮はクリスティアン・ティーレマン。最高でした! 同歌劇場、そして私を育ててくれたフリードリヒには心から感謝しています。彼は人生の全てをオペラに捧げた人で、とても厳しい人でしたが、天才的な芸術家でした。

─カウネさんは2010年の『アラベッラ』で新国立劇場に初登場していただきましたが、新国立劇場にどのような感想を持ちましたか。

K 素晴らしい劇場ですね。雰囲気がいいし、関係者のプロ意識が高い。全てがスムーズに進行するので、余計な心配をせずに気持ちよく歌えました。日本へは小さな息子を連れて行ったのですが、みなさんにとても親切にしていただきました。ありがとうございました。

─今回の『イェヌーファ』はベルリン・ドイツ・オペラで制作されたプロダクションで、カウネさんは2012年の初演と14年の再演ともにベルリンで出演されています。この舞台はベルリンで大きな話題になったそうですね。

K 自分がタイトルロールを歌っていたので客観的な評価をするのは難しいのですが、歌手、指揮者、演出家、全てにおいて理想のキャスティングが実現した舞台だったと思います。とても美しい演出で、舞台美術も衣裳も完成度が高く、初日から絶賛されました。稽古は大変で、5週間以上かけて役を徹底的に掘り下げていきました。みんなへとへとになりましたが、苦労の甲斐あって演出と音楽が相互に支えあう素晴らしい舞台になりました。地味なオペラなので、最初はチケットの売れ行きがあまり芳しくなかったのですが、初日の評判を耳にした人たちが残りの日のチケットに殺到し、瞬く間に完売しました。普段あまりオペラを観ない人も観に来てくれて、嬉しかったです。

─実際に起きた事件をもとにしたという、モラヴィアの閉鎖的な農村で起こるこのドラマを、演出のクリストフ・ロイ氏はどのように捉えていましたか。

K リハーサルが始まる前に出演者全員で原作の戯曲を読んで、物語の背景にあるさまざまな事柄について話し合いを重ねて、作品への理解を深めました。ロイの演出は複雑に揺らぎ絡み合う登場人物の心理を巧みに浮き彫りにしていきます。心理劇のようなアプローチです。

『イェヌーファ』舞台写真
Production: Deutsche Oper Berlin
Photographer: Monika Rittershaus

幕が下りたあとイェヌーファには幸せになってほしい

─ロイ氏とカウネさんがつくりあげたイェヌーファとは、どのような女性でしょうか。

K イェヌーファはシュテヴァの虜になっている垢抜けない村娘で、完全にコステルニチカに支配されています。シュテヴァが自分を裏切ったことが信じられず、現実を直視できずに「なんとか上手くいくだろう」と最後まで考えている世間知らずの若い娘です。第1幕では村の若者と無邪気に戯れていた明るい少女が、恋をして、出産して、子どもを失うという試練を経験して一人の哀れな「女」に変化していきます。愛するシュテヴァに捨てられ、ラツァと結婚するけれど、そこにあるのは愛ではなく「諦め」です。子どもを殺したのが、唯一頼りにしていた継母だったという衝撃的な事実を知った瞬間、彼女の心が音をたてて崩れていきます。ラツァと幸せになれればよいのですが……。全てが明らかになった後の彼らの運命は不明なままオペラは幕を閉じますが、個人的には幸せになってほしいです。

『イェヌーファ』舞台写真
Production: Deutsche Oper Berlin
Photographer: Monika Rittershaus

─チェコで『イェヌーファ』は、原作の題である『彼女の養女』と呼ばれているそうですが、「彼女」とはイェヌーファの育て親コステルニチカのことですね。コステルニチカとは名前ではなく「教会守のおばさん」という意味だそうですが、彼女はどういう人物でしょうか。

K 多くの不幸を背負って生きてきたがゆえに、きつい性格になってしまった哀しい女性です。心の底ではイェヌーファを愛していて、精いっぱい彼女のためを思って行動するのですが、全てが裏目に出てしまいます。養女である上に未婚の母になれば、どれほど世間から白い目で見られて苦労するか分かっている。だから、浅はかではあるけれど、狭い社会しか知らない彼女なりの判断で、イェヌーファの幸せを考え、赤子を殺してしまいます。のちに自分の過ちに気づくわけですが、すでに手遅れでどうすることもできず、ますます不幸になっていくのです。

─カウネさんにとって、オペラ歌手であることの魅力とは何でしょう。

K 音楽を通じて多くの人に感動を与えられるのが魅力ですね。大好きな歌を仕事にできる自分は、幸せ者です。世の中には夢が叶わない人が大勢いることを知っていますから。人々の生活に例えわずかでも潤いを与えることできればと日々願い、感謝しながら舞台に立っています。身体が楽器なので、日常生活では、本番前に大きな声で子どもを叱らないように心がけるといった注意が必要ですが(笑)、できるだけ普通の生活をするようにしています。7歳の息子はサッカーに夢中で、よく練習の相手をさせられるんですよ。男の子はじっとしていないから、いつも大声を出して駆けずり回りながら子育てしています!

─今回の滞在中、東京で行ってみたい場所などありますか。

K 海が見たいですね。忙しいのでなかなか時間がとれませんが、横浜港あたりまでなら行けるかしら……。

─最後に、新国立劇場で初上演する『イェヌーファ』を期待している読者へメッセージを。

K リハーサルの前段階から演出家と話し合いながら練りあげていった渾身の『イェヌーファ』です。どうぞ楽しみにしていてください!

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