シアター・トーク
[特別編]レポート


シリーズ・同時代【海外編】スペシャルイベント
シアター・トーク[特別編] 「シュート・ザ・クロウ」


4月11日(土)新国立劇場小劇場
出席 オーウェン・マカファーティー(『シュート・ザ・クロウ』作者)
    田村孝裕(『シュート・ザ・クロウ』演出)
    浦辺千鶴(『シュート・ザ・クロウ』翻訳)
    小田島恒志(『シュート・ザ・クロウ』翻訳)
    鵜山 仁(演劇芸術監督)
    平川大作(イギリス演劇・現代戯曲研究会メンバー)<司会進行>
    (通訳:近藤聡子)

この作品はタイル張りについて描いた作品ではありません。(笑)<オーウェン>

平川●本日はたくさんお残りいただいてありがとうございます。司会を務めさせていただく平川大作です。まず今回のアフタートークの企画意図をご説明します。芸術監督の鵜山さんを中心にして現代戯曲研究会という勉強会を開いています。戯曲研究会では、イギリス、フランス、ドイツの新しい戯曲を日本語にしてメンバーで読んでいます。私は、この研究会でオーウェンさんの『シーンズ・フロム・ザ・ビッグ・ピクチャー』という作品を翻訳しました。「シリーズ同時代【海外編】」の3公演は、戯曲研究会で取り上げた作品からチョイスしています。本公演には選ばれなかった3作品もリーディング上演されます。では、自己紹介を兼ねて、鵜山さんからどうぞ。
鵜山●今日はありがとうございました。(拍手)本当は、本公演で英独仏と3本の戯曲を取り上げようと思っていたんですが、いろいろな事情で独英独の3本になりました。リーディングではフランスの作品を1本取り上げる予定です。実は今日は、僕が演出するその作品の稽古始めで、出演する新国立劇場の演劇研修生との顔合わせがありました。今回の『シュート・ザ・クロウ』は僕の演出ではないので、嫉妬にかられつつ、(笑)楽しませてもらっています。
平川●では、メインゲストで作家のオーウェンさんをお招きしていますので、ご紹介します。
オーウェン・マカファーティー マカファーティー(以下O.M)●今日上演していただいた『シュート・ザ・クロウ』を書いたオーウェン・マカファーティーと言います。今回初めて日本に来て、たいへん楽しませていただいています。『シュート・ザ・クロウ』は10年前ぐらいに書いた作品ですが、私が住む北アイルランドのベルファストで上演されたことがありません。なぜ東京で上演されて、私のいるところで上演されないのかと思っています。(笑)この作品を書き始めた時は、2つのことをやりたいと思っていました。まずひとつは、 “仕事って何だろう”ということを書きたかった。私たちは、仕事って大嫌いと思いがちですが、それと同時に仕事がないと生きていけないという矛盾があると思います。もうひとつは、男たちが働く時にどんなことがあるのか。通常それは意識しづらいものだと思い、それを明確に示したいと思ったのです。今回、通訳を通して話すのは初めてで戸惑っているのでご了承ください。(笑)それにこんなにゆっくり考えて話すこともかつてないことです。(笑)
 仕事をテーマに掲げてしまうと重いと思いました。あまりにもシリアスになってしまうので、コメディのほうがいいだろうと思いました。もうひとつ思いついたのは、仲間同士で仕事をする時には、仲間同士でしか通じない言葉で会話しているということです。仲間同士でしか通じない言葉を扱うことでコメディにつながると思いました。これを私が書いた時は、北アイルランドの和平交渉がやっと成立したころでした。北アイルランドでは、派閥主義による衝突が起きていました。この作品を書くにあたっては、政治的な状況よりも個人的な人生や生活のほうが重要だと思いました。だからこそ、今回の作品の中で4人の男たちが衝突しているどっちの側の人間なのかについては一切触れていません。どちらの側なのか描いてしまうと、観客は「自分はあっちの人間なんだ」と思ってしまい、のけものにされたように興味を失ってしまうからです。
平川●演出の田村孝裕さんです。(拍手)ここだけは言っておきたいということがあれば。
田村●ここだけは言っておきたい? ない。(笑)
平川●翻訳お2人お呼びしています。浦辺千鶴さんです。(拍手)
浦辺●翻訳を小田島先生といっしょにさせていただいた浦辺千鶴と申します。
平川●もうお一方、小田島恒志さんです。
小田島●翻訳の小田島恒志と言います。いつもこういう場にいると喋り過ぎるので、今日は司会かなと思っていたら取られちゃいました。(笑)喋っていいですか?
平川●はい。
小田島●なぜ翻訳が2人いるかと言うと、浦辺さんがジャパニーズに換えて、それを僕がファッキング・ジャパニーズに換えたわけです。(笑)
平川●オーウェンさんは、タイル張りの経験があると聞きましたが。
O.M●そうですね、10年間ぐらいタイル職人として働いた経験があります。この作品もタイル職人として働いていた時に書いたものです。
平川●仕事をされながら?
O.M●当時はパートタイムの副業として作品を書いていました。強調しておきたいのは、この作品はタイル張りについて描いた作品ではありません。(笑)労働を描きたかったのです。
平川●もちろんそれは心得ています。(笑)実際に演技をしながらタイルを張るのは特徴的で、専門の方を呼んで稽古をしたそうですが、田村さん、そのあたりのご苦労は?
ステージPhoto 田村●そうですね、テーマとタイル張りとは関係ないとオーウェンさんはおっしゃいましたけど、僕らにとってはすごく関係があって。「とにかく一生懸命タイルを張りながらお芝居をしなきゃダメだよ」と北アイルランドのオーウェンさんからメッセージをいただきました。(笑)稽古の最初1週間ほどは、タイル協会の先生からご指導いただいて、タイル張りばっかりやっていました。(笑)同時にセリフも覚えなきゃならないし、役者さんはものすごいたいへんで、演出もつけられない状況でした。セリフが入ってタイルを上手く張れるようになるのを1週間待ちました。そのご苦労は明日のシアター・トークで役者さんが語ってくれると思うので、もう一度観に来てください。(笑)
平川●暗転をはさんでタイル張りが仕上がった様子を見せて、仕事の成果が目の前で見られるのは演劇的な効果としてあると思います。オーウェンさんにお聞きしたいのは、セリフに出てくるのは、当時の職人の言葉なのでしょうか?
O.M●私の職場の友人たちは、私がいつも職場で聞き耳を立てて台本に書こうとしていると思っていました。(笑)本当の労働者の言葉のように聞こえなければいけませんが、それと同時に詩的な要素も必要だと思います。そういう意味では、完璧にリアルというわけではないんですよね。