現代戯曲研究会


シンメルプフェニヒとローアー 〜「共闘」するドイツの劇作家たち〜
三輪玲子

この春、小劇場で連続上演された、シリーズ・同時代【海外編】の3作品、さらに番外連続リーディングの3作品までご覧いただいた方には、かなりの贅沢感を味わっていただけたのではないだろうか。ヨーロッパ気鋭の作品群に対して緻密な忠実度を保ちながらも、日本初演を担う演出面ではそれぞれに忌憚のないクリエーションが発揮され、普段あまり使わない感性のストレッチ効果もあったかもしれない。

どれも真っ当に面白く完成度の高い作品であったが、北アイルランドのオーウェン・マカファーティー作『シュート・ザ・クロウ』が悲劇と喜劇のはざまを小気味良く擦り抜けていくのに比べて、ドイツの2作品、ローラント・シンメルプフェニヒ作『昔の女』とデーア・ローアー作『タトゥー』は、100%悲劇としか言いようのない設定をもちつつ、演劇的な多義性に開かれていて、舞台上演に対して挑戦的な(そういう意味でドイツらしい)戯曲であった。リアルに分かりやすく提示するのはテレビなど別のメディアの役目であって(ローアー)、傷口にあえて触り刺激し挑発することこそ演劇の役目(シンメルプフェニヒ)、というシアター・トーク特別編での公言も、いかにもドイツ語圏演劇を牽引する2人らしいと頷ける。

今回リーディング上演されたローアー作『最後の炎』は、ある少年の交通事故死にかかわり合った者たちの物語だ。ハンブルクの初演では、回り舞台に住居が設えられており、社会の片隅に暮らす名もなきの住人の台所、居間、寝室、浴室が断続的に眼前を流れ、そこから徐々に生活用品が撤去され人の気配が消えていく喪失感と、部屋の扉から扉へと順行、逆行を繰り返す俳優たちの痛ましくも美しい姿、声に打ちのめされる。『最後の炎』は2008年の最優秀戯曲(演劇専門誌「テアター・ホイテ」)にも最優秀演出(ファウスト演劇賞)にも選ばれており、来シーズン、ベルリン・ドイツ座で初演を迎える新作への期待も膨らむ。

同じくベルリン・ドイツ座で今シーズン、『不思議の国のアリス』翻案版の自作演出に臨んだシンメルプフェニヒは、自ら作詞した挿入歌の生演奏を交えつつ、叙情的グロテスクともいえるアリス・ワールドで楽しませてくれた(アリス役は06年ドイツ座来日公演『エミーリア・ガロッティ』主役のレギーネ・ツィンマーマンが好演)。また、この5月のベルリン演劇祭では、昨年チューリヒで初演された『いまここ』がドイツ語圏年間ベストテンの舞台のひとつとしてお披露目されており、4月からはドイツ座で最新作『イドメネウス』が上演中、秋にはウィーンで新作の自作演出も予定されている。

毎年、優れた新作戯曲の上演が一堂に会するミュールハイム演劇祭でも、昨年はローアーの『最後の炎』(劇作家賞受賞)、今年はシンメルプフェニヒの『いまここ』が招待作品に名を連ねている。ドイツ本国でまさに「旬」の2人は、ともにベルリン在住の同世代の作家であるが、演劇現場出身で自らも演出するシンメルプフェニヒも、書き手に専念するローアーも、演劇ならではの使命に資するべく、各々の持ち場でさらなる「共闘」を続けているようだ。
<2009.7.2発行『現代能楽集 鵺』公演プログラムより>