世界の劇場


カナダ

活発な演劇シーンは劇場のせめぎ合い

カナダの劇場はその運営形態によって5種類に大別することができる。
@ コマーシャル・シアター(商業劇場)
A リジョナル・シアター(地域劇場)
B オルタナティブ・シアター(傍系劇場)
C サマー・シアター (夏季劇場)
D ナショナル・シアター(国立劇場)の五つである。

@は、私企業が営利目的で運営する劇場で、その大部分はカナダ最大の都市であると同時に最大の演劇市場でもあるトロントに集中している。自ら保有する大劇場で、自主制作のストレート・プレイ、ミュージカルを上演するほか、欧米ヒット作のツアーの受け入れ先ともなる。

Aは、カナダ各地の大・中都市にあり、市政府(ところによっては州政府)が造った劇場を拠点に、町を代表する文化的な顔の一つとして非営利ベースで運営されている。地域差はあるが、年6本前後の出し物を制作・上演。その運営費は連邦・州・市政府からの助成金、企業・個人からの寄付金、入場料収入(それぞれ3分の1前後の割合)でまかなわれている。

Bは、リジョナル・シアターを取り囲む中小劇団群で、恒常的な拠点劇場は持たず、貸し小屋を使って不定期な公演を行う。リジョナル・シアターがどちらかというと体制側に属し、制作する舞台も正統性を重んじる名作路線であるのに対し、オルタナティブ・シアターは先鋭的・実験的作品の上演が多く、この両者のせめぎ合いがカナダ各地の演劇シーンを活況あるものにしている。

Cは、大都市近郊の避暑地で夏の間だけ開かれるフェスティバル形式の劇場である。中でも有名なのがオンタリオ州ストラットフォード市にあるシェイクスピア・フェスティバルと、同じくオンタリオ州ナイアガラ・オン・ザ・レーク市にあるショー・フェスティバルである。前者を例にとって見ると、市内に四つの専用常設劇場を持ち、シェイクスピアものを中心に現代劇やミュージカルも交え、毎夏12〜14本の芝居を上演。観客動員数は毎シーズン40万人に及び、カナダの演劇現象の中で特異な位置を占めている。なお、BCはともに非営利劇場であるが、総運営費中に占める公的助成の割合は10%前後で、Aに比べると低い。

そしてDの国立劇場である。編集部からの要望もあり、以下、カナダの国立劇場に的を絞って詳説することとする。

いろいろな顔をもつ国立劇場

カナダの国立劇場は「ナショナル・アーツ・センター」と呼ばれ、国の首府オタワにある。1967年、カナダ建国百周年記念事業として連邦議会の発議で建設が始まり、1969年に竣工した。

また、演劇では英仏両語部門が対等に配置されているのがいかにもバイリンガルの国カナダらしく、仏語演劇部門の芸術監督がレバノン出身の新移住者で、最近日本でもその作品が紹介された劇作/演出家ワジディ・ムアワッド氏であることなども、文化の多様性を誇るカナダという国の懐の深さを仄見させると言えよう。

組織・運営面を見てみよう。ナショナル・アーツ・センターはカナダ連邦政府が優れた芸術の創造、多様性文化の保持、青少年・若手芸術家の育成を目的に設立した官営法人である。その運営は8人の常任理事とその下にくるCEO、各部門の芸術監督、実務部隊に任され、創造面・採算面ともに独立性が保たれている。

9000万ドル(約7億5000万円)の総資産を持ち、2009年度支出総額は 7200万ドル(約6億円)で、その50%を国庫がまかない、残り50%は入場料収入、駐車場・レストランの収益、個人・法人からの寄付金でまかなわれている。同年度の動員観客数は60万人を超えたが、最終損益は133万ドル(約1100万円)の赤字に終わった(ちなみに、2008年度は20万ドルの黒字。ここで言うドルはいずれもカナダ・ドル)。

広い国土で効果をあげるアウトリーチ

潤沢な国家予算に恵まれて活発な活動を続けているナショナル・アーツ・センターであるが、その運営には一つの弱点がある。立地の悪さだ。オタワはカナダの首府で政治の中心地ではあるものの、人口は周辺地域を含めてもわずか100万。経済/文化面での活力ではトロント(周辺地域を含めた人口540万)、モントリオール(同360万)、バンクーバー(同220万)などの大都市には遠く及ばない。オタワで何かをやってもその波及効果は局地的に終わってしまうのである。

その弱点を補うためにナショナル・アーツ・センターが行っているのが「アウトリーチ・プログラム」である。具体的には、地方の劇場・芸術団体との提携・交流の強化に努めている。

英語演劇部門のレパートリーを見るとその実態がよくわかる。いま中劇場で上演中の劇『ヴィミー』は第一次世界大戦当時カナダからヨーロッパ戦線に送り込まれた兵士たちの苦闘をテーマにしているが、その作者は西カナダ・エドモントン在住のバーン・ティエッセン、演出家は東カナダ・ハリファックス在住のリンダ・ムーア、そして劇そのものは西カナダの小都市カムループスに拠点を置くウエスタン・カナダ・シアターとの共同制作。オタワでの上演が終ると、この劇はそっくりそのままカムループスにところを替えて上演されることになっている。また、この2月に上演される『ザ・イヤー・オブ・マジカル・シンキング』という劇はカナダ最西端のビクトリア市にあるベルフリー・シアターとの共同制作。同じく2月に上演される『アグクウェイ』はトロントでヒットしたカナダ原住民の自作自演劇の再演である。その辺にも地理的にのみならず民族的なバタンスも配慮に入れたアウトリーチ政策の実践が見て取れる。

もちろんこのアウトリーチ・プログラムは演劇部門だけで行われているのではない。NACオーケストラはカナダ各地を巡演することが多く、昨年度は西カナダを中心に10都市で13回の演奏を行い、27コミュニティーを訪れて若手養成のための「マスター・クラス」「ミュージック・クリニック」を開催している。また、ダンス部門がバレエ・ブリティッシュコロンビア、ローヤル・ウィニペッグ・バレエ等、他のバレエ団との提携を強めているのも、アウトリーチ政策の一端であるといえよう。

以上、紙面の制約で言い尽くせないことが多々残ったが、カナダの劇場事情の概括である。(2010.12.13、バンクーバーにて) 

吉原豊司[翻訳家]

<2011.1.13発行『わが町』公演プログラムより>