エディンバラ・フェスティバル
Edinburgh Festival

フェスティバル・シアター

エディンバラ・フェスティバルは世界で最も有名で、かつ最大の舞台芸術演劇祭である。フェスティバルが開催される8月の3週間、街の人口は倍増し、エディンバラを象徴するロイヤル・マイルは昼夜、観光客であふれる。大道芸人、物売り、マイムアーティスト、ストリートシアターの俳優、歌手、火吹き、太鼓隊、チラシを配る人などで混み合い、「コメディショーへどうぞ、あと10分で始まります、一人分の入場料で二人入れます」という必死な呼び込みの声を、通行人は1日に何度も繰り返し聞くことになる。

通常、エディンバラ・フェスティバルとは、1947年に創設されたメインの音楽・演劇国際フェスティバルではなく、もともとその付属イベントにすぎなかったエディンバラ・フリンジのことである。国際フェスティバルは、国籍を問わず世界の優れたアーティストやカンパニーを招き、人間的豊かな心を育てる場を提供することを目的に、第二次世界大戦の戦争跡地から生まれた。その根底には、ものごとを生み出し、変革していく舞台芸術の力を信じる精神がある。当初は、国際フェスティバルの演目に演劇は少なく、フリンジはフリンジ(周辺)という名前のとおり、メインの国際フェスティバルを周りから補う形でスタートした。今ではフリンジはメインのフェスティバルより大きく成長したが、双方異なる役割を担っている。
エディンバラ国際フェスティバルは演劇以上にオペラ、クラシック音楽、舞踊を主とし、フェスティバル・ディレクターに招待されてはじめて参加できる。一方、フリンジには選考基準がないので、誰が何を上演しても自由である。プロダクションはあまり組織的でなく、その作品も低予算の場合が多い。フリンジ自体も細分化し、演劇祭だけでなく、国際映画テレビ祭、国際ブック・フェスティバル、ジャズ&ブルース・フェスティバル、最近では毎年恒例のミリタリー・タトゥーも出現。ミリタリー・タトゥーはスコットランド軍楽隊のパレードのことで、どのイベントとも公式な関係はないが、毎夜10時半と11時に花火を上げ、空砲を打ち、このフェスティバルに独特の雰囲気をもたらしている。膨大な数のコメディアンがこの時期にエディンバラでライヴを開催、エージェントによるタレント発掘の場となり、コメディ目当ての観客も多いため、コメディ・フェスティバルはエディンバラ・フェスティバルとは別物とする風潮もある。
二大フェスティバル間には長年微妙な関係が続き、国際フェスティバルは次第に厳格化されていった。1996年、ついに国際フェスティバルの開催時期がずらされ、二者の関連性が薄れてしまう。しかし近年、フェスティバル・ディレクターが、ジョナサン・ミルズ卿からファーガス・リネハンに変わると、今後は国際フェスティバルとエディンバラ・フリンジが同時開催されることが発表された。フリンジの活気に国際フェスティバルが便乗するわけだが、リネハンがフリンジの重要性を認めている証であり、二者を同時期に両方体験したいと思っていた観客に喜んで迎えられるであろう。「これがエディンバラ・フェスティバルの力であり、これでこそ成り立つわけで、個人的には世界最高の芸術祭というだけでなく、世界最高のイベントだと思っています」と彼は語っている。

エディンバラ・フェスティバル2014のハイライト

フェスティバル・シアターで上演され、9月10日からナショナル・シアター・ロンドンに移った『ザ・ジェームズ・プレイズ』は、15世紀スコットランドの国民性と政治に影響を与えたステュアート朝の3人の王を描いた劇作家ロナ・ムンロによる意欲作であり、スコットランド独立住民投票を目前に、国家に対する考えを改めて問うものだった。シェイクスピアの偉大な史劇がイングランドの思想の核になったように、スコットランド人が自国の形成について考える手引きとなるよう、スコットランドをテーマにした史劇シリーズを提供したいとムンロは言う。エディンバラとロンドンを拠点にする二つのナショナル・シアターのコラボレーションで生まれたこの三部作の上演は、何世紀も続いてきたイングランドとの連合をスコットランドが解消すべきかを問う住民投票まで数日に迫ったまさにそのとき、ロンドンのサウスバンクに移る。チケットの入手はすでに困難であり、いかにスコットランド人が独立をめぐる討論の前哨戦を本作に求めているかがわかる。
トラバース・シアターで上演された、オーウェン・マカファーティ作『アンフェイスフル』の演出は、ナショナル・シアター・スコットランドを支える劇場のひとつであるパース・シアターの元芸術監督で、現在ウェールズ、カーディフにあるシャーマン・カムリの芸術監督を務めるレイチェル・オリオーダン。不倫や自分自身に正直になるはかない夢を描く4人芝居だ。
同じくトラバース・シアターで上演され、ファイヤー・イグジットと共同制作された、デイヴィッド・レディ作・演出『ホリゾンタル・コラボレーション』は、ハーグにある国際司法裁判所での、現代における戦争犯罪の裁判記録がもとになっている。タイトルは横の連携という意味で、内戦で人質になった女性たちの強姦事件というテーマと、毎夜、異なる俳優によって演じられ、しかもキャストは全員、台本を読んだことも観たこともないという試みからなる衝撃的な作品だ。プロデューサーのマーリー・ヘザリントンによる簡単な作品紹介のあと、4人の俳優が8台のランプと4台のノートパソコンが並んだ机につき、画面に現れる台詞を読む。俳優の一人が、自分たちは長期裁判における弁護士の第二チームで、多くの裁判記録に目を通さなければならないと説明する。装置のシンプルさに観客は演劇を観ていることを忘れ、ストーリーに集中していく。実際リハーサルなしで、今、自分たちの目の前でまさにリアルタイムで起こっているため、ぐいぐいと引きこまれ、圧倒的なリアル感を味わう。俳優も自分たちが演じている芝居で何が起きているのかわかっていないとは、台本のある演劇としては極めてまれだ。本作の姉妹編『シティ・オブ・ザ・ブラインド』はwww.davidleddy.com別ウィンドウで開きますで観ることができる。
ザ・アンダーベリーで上演されたクララ・ブレナンの新作『スパイン』は、自分は生まれながらの負け組だと将来に絶望しながら生きる労働者階級のロンドンの少女を描いている。試験に落ち、仕事を失い、親友と仲違いし、家宅侵入罪まで犯すが、老婆との思いがけない出会いが彼女を変え、コミュニティができていく。気持ちが高揚し、前向きになれる作品だ。
『リターン・トゥ・ザ・ヴォイス』はグジェゴシ・ブラル演出、ソング・オブ・ザ・ゴートによるポーランドの連作歌曲で、ロイヤル・マイルにあるセント・ジャイルズ大聖堂で毎晩遅くに上演された。男性8人、女性6人の歌声が絶妙に響きあう、ポーランド伝統音楽と古いスコットランド民謡の融合による作品は、観劇続きの1日を締めくくるにふさわしいものだった。
デイヴィッド・ジョンストンの『グリーン・ティー・アンド・ゼン・バカ』は対照的に、毎日朝早く、エディンバラのコンテンポラリー・ダンスの中心であるダンス・ベースで上演。エディンバラ城を望む屋上庭園で日を浴び、緑茶を飲みながら、瞑想する聖なる愚者の思想と舞踏を楽しめる、早い者順で20名が参加できる無料イベントだった。

ウィリアム・ジェームズ[ディレクター、在ウェールズ]

<2014.10.8発行『ブレス・オブ・ライフ~女の肖像~』公演プログラムより>