台湾

 アジア近隣諸国のなかで、特に文化に力を入れ、多額の予算を劇場文化にかけているのは台湾ではないでしょうか。
 ここでは、建設中の国立劇場と現在ある国立劇場について報告します。

建設中の国立劇場

 国立劇場は台北にあるが、現在同時進行で、ふたつの国立劇場を建設中。ひとつは、日本の建築家伊東豊雄氏(日本での劇場建築としては、座・高円寺、まつもと市民芸術館など)が手がける台中メトロポリタンオペラハウス(国家台中大都会歌劇院)。2013年のオープンを目指していたが、難工事のため工事が大幅に遅れ、今年の末オープン予定である。

 もうひとつは高雄市の衛武営国家芸術文化中心。先日高雄に行ったおりに前を通りかかったが、大きな吊り型タイプの屋根は、まるで競技場のような形を見せていた。こちらは2015年のオープンが予定されている。

 この3つの国立劇場を運営して行くための新しい国の独立機関として、国家表演芸術中心(舞台芸術センター)がこの4月7日に発足した。将来的にはこの3つの劇場で13000席を作り、これは北部、中部、南部を帯状に結びつける文化の"真珠"であり、国民にとって重要な"美学の教室"となるものと期待し、舞台技術の総合的な環境のレベルアップをしてゆくとの方針である。

 これ以外にも、台湾といえば有名な夜市、台北市最大の士林夜市、もよりのMRT劍潭駅の目の前に大きな公設市場があり、朝は朝市、夜は観光夜市として何百という飲食店がひしめき毎晩賑わっていた。なんとこの公設市場を1キロメートル以上先に移動し(しかも飲食街は地下となった)、その一等地に新たに台北市が台北芸術中心(台北芸術センター)を建設中なのである。

 3つのホールをもち、年間600回の公演を行い、観客動員数は年間45万人、周辺地域への観光波及効果も期待して"文化芸術観光産業網"を構想し計画。オープンは2015年12月予定。

 さらに100年前の日本統治時代につくられた製糖工場やたばこ工場を国が買い取り、市政府や第三セクターによって運営されている"文化創造園區"が各地につぎつぎにできていて、ずらりと並ぶ倉庫群のなかでは、ロックのコンサート、演劇、ダンスの稽古や公演が行われ、展示会場、複数のミュージアム、映画館などの施設に加え、飲食店やアートショップ、本屋などもある。

 もともと広い工場の跡地なので、公園のようでもあり、一日中家族連れで文化が楽しめる。古い建物もきれいに修復されていて雰囲気もあり素敵である。

 2年前には、私の住む台北市の小さな街で廃校になった小学校を国が劇団事務所と稽古場に解放した。大変安い家賃で事務所が借りられて、大きな稽古場、小さな稽古場と選ぶ事ができるため、今ではこの街はすっかり演劇人の街になりつつある。

 また台北市内には、ふたつの国立芸術大学があり、もちろん演劇学部があり(東京藝術大学に演劇学部はない!)、演劇専用劇場ならず、ダンス専用ホール、音楽ホール、スタジオ劇場、いくつものリハーサルスタジオ、野外の能楽劇場もある。

 創作過程にもサポート体制が手厚くできてきている。まことにうらやましい状況がある。

 これだけ本気で文化に力をいれている国の数年先が実に楽しみである。今たまたまここにいるので、少しでも台湾独自の文化作りに手を貸すことができれば幸いに思う。

人がいつも集まる国立劇場=国立中正文化中心  国家戯劇院と国家音楽廰院

 日本からの公演は、坂東玉三郎をはじめ、狂言、文楽、能などのほか、鈴木忠志演出での台湾人俳優とのコラボレーション舞台などがあり、来年も宝塚歌劇団公演が8月に予定されていて今から話題となっている。また、著名な海外カンパニー(ピナバウシュ、太陽劇団、ロベール・ルパージュなど)も頻繁に観ることができ、最近は日本の演劇関係者が台湾にこれらの舞台を観にやってくる。毎年2月から3月にかけては、45日間の台湾国際芸術節が行なわれ、国内外のカンパニーや音楽家達が沢山参加する。

[大劇場]
●プロセニアムアーチ型劇場
●客席数: 1522席
●舞台の大きさ: 26.5m×16.7m
●プロセニアムの高さ: 10m
 大劇場には通常ホリゾント以外にもう一つ、ドイツオペラ式の大変珍しいU字型ホリゾントがあり、1987年のオープン以来5回しか使用したことがなく、私自身もヨーロッパでも見たことがなく、初めて台湾で見ることができた。


[実験劇場]
●スタジオタイプ
●客席数: 180席〜240席
●全体の大きさ: 18m×14m
●天井までの高さ: 6.1m
実験劇場の天井はテンショングリットシステムで、天井が鋼鉄ネットでできており、すべての作業はそのネットを歩いて行う。私は以前、英国で一度だけ体験したことがあり、これも珍しいシステムである。

人がいつも集まる国立劇場とは、

 以前1カ月間毎朝早く中正文化中心を横切っていたことがあったが、早朝から劇場のまわりは大変な賑わいなのである。お決まりの太極拳のグループや個人。手に扇子を持ってひとり踊る人、社交ダンスの衣装でヒールを履き、スピーカー.プレヤーも持参し、のけぞってタンゴを踊る人、走る人、犬を連れて散歩する人、車椅子の人(電動車椅子も多い)、写生をする人、様々な人が仕事前前にここで各自エネルギーを使っている、台湾人朝からまことに元気。

 夕方学校の授業が終わる頃から、今度は若者たちのストリートダンスのメッカとなり、全面ガラス張りの劇場とコンサートホールのまわりはダンスレッスンの鏡となり、ビッシリと若者たちのグループが並び、夜遅くまで踊りの稽古を続ける。これは劇場が本番中でも許されるようである。週末や休日はさらに人が増え、スクエア広場では学校のブラスバンド部がパレードの稽古をしていたり、先日は何千頭の紙の張りぼてで作ったパンダが並んでいてそれを取り囲む人、人、人……。国立劇場のまわりはいつでもなんだか自由な雰囲気なのである。

 なお、ふたつの新しい国立劇場がオープンしたのち、2016年には大改修のため、長期の休館がすでに予定されている。

松本"Shoko"直み(照明家)

<2014.7.8発行『永遠の一瞬』公演プログラムより>