

新国立劇場の次期舞踊芸術監督予定者として、初シーズンについてご説明させていただくことを大変光栄に思っております。
本シーズンのオープニング公演は、時代を代表するバレエ作品のトリプル・ビルを上演します。1作品目は、ジョージ・バランシン振付の大変美しい『シンフォニー・イン・C』。本作品の音楽はジョルジュ・ビゼーで彼が十代の頃作曲した傑作といわれています。2作品目は振付家ミハイル・フォーキンと作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーが生み出した偉大な作品『火の鳥』です。本作品は、世界初演から本年で100年という記念すべき年を迎えます。トリプル・ビルの最終演目は、私自身の振付作品で1988年に英国ロイヤルバレエにより初演された『ペンギン・カフェ』です。私は舞踊芸術監督就任にあたり、その嚆矢としてオペラパレスで、トリプル・ビルを組みたいと強く願っておりました。それは、厳選された小作品群に彩られた一夜が、いかに有意義で楽しいものとなり得るか、日本の観客の皆様にお見せしたかったからです。更に、トリプル・ビルを上演するにあたり、新国立劇場バレエ団のダンサーにとっても、より多くの役、パートを演じる好機が与えられれば、今まで未知であった多くの才能や個性が開花する可能性があり、この経験がダンサーを成長させてくれることと信じています。また、本プログラムは、オーケストラの手腕が大いに発揮される高いレベルの演奏を披露できる素晴らしい機会になると思います。
11月〜 12月には、クリスマスギフトとして、『シンデレラ』を上演します。舞踊芸術監督としての初シーズン演目構成に英国作品が多いと思われる方もいらっしゃると思いますが、新国立劇場は以前から多くの英国作品レパートリーを持っており、ロンドンの観客のみならず、日本の観客の皆様がクリスマス恒例の作品として、フレデリック・アシュトン卿振付の『シンデレラ』を愛して下さっているのは嬉しい限りです。
新国立劇場のレパートリーには、牧阿佐美現舞踊芸術監督の大変なご努力とご貢献があると思います。古典バレエの宝庫とも言うべき作品の数々は、新国立劇場が引き継がなくてはならないものだと思っています。特に壮大で秀逸な作品である『ラ・バヤデール』は世界のどのプロダクションにもないものです。来年1月に予定しています再演時には、牧監督に新国立劇場バレエ団に戻っていただき、牧監督からダンサー達に直接ご指導いただけることとなります。
本シーズン最も楽しみにしている公演企画の1 つが、年に1度上演する中劇場公演です。中劇場は、フルサイズのオーケストラピットを完備した大きな劇場ですが、オペラパレスと比較してみますと、観客席と舞台が近距離にあり、親近感の持てる劇場構造になっております。そのため、中劇場には若干小規模の本シーズン第2作目となるミックス・プログラムを予定しております。1作品目は、ジョージ・バランシン振付のネオクラシック作品『コンチェルト・バロッコ』、そして私の振付作品『テイク・ファイヴ』で、この作品ではジャズ・カルテットのライブ演奏が織りなす音楽に浸っていただけると思います。音楽は、世界的に有名なジャズ界の巨匠、デイヴ・ブルーベックに捧げる作品として、彼のアルバムの曲を使用しています。3作品目はトワイラ・サープの最高傑作とも言われる『イン・ジ・アッパー・ルーム』。本作品の上演時には、必ず客席から大歓声が沸き上がり、拍手喝采となる作品ですので、日本の皆様にも満足していただけると確信しております。
さて、私の振付家人生の中で、大変印象に残っている貴重な経験の1 つが、新国立劇場バレエ団のために振り付けした『アラジン』です。本作品は私の人生において、これからも宝物であり続ける作品だと思っております。バレエダンサーと共に仕事をする中で、彼等が与えられた役を通して試行錯誤し成長していく姿、またカンパニーが一体となって作品を創り上げていく過程は、本当に実りある楽しい日々でした。2008/2009シーズンに世界初演した本作品を多少改訂して、来年5月に再演させていただくことを楽しみにしております。
また、本シーズンの最後を飾る作品は、ケネス・マクミラン卿振付、セルゲイ・プロコフィエフ音楽による『ロメオとジュリエット』の再演です。この作品は、1965年に英国ロイヤルバレエのマーゴ・フォンテーンとルドルフ・ヌレエフという偉大なダンサーが初演し、その後バーミンガム・ロイヤルバレエでは1993年に、新国立劇場では2001年に初演している作品です。
新国立劇場の舞踊芸術監督としての責務は、コンテンポラリーダンスの監督も兼務することだと考えています。コンテンポラリーの振付家やダンサーたちとコミュニケーションを図る中で、現在発展段階にあるコンテンポラリーダンスの重要性を認識する大変良い機会と思い、楽しみにしています。ご存知の通り、私はバレエの世界でキャリアを積んできておりますが、今日のダンス界において、コンテンポラリーダンスは重要な役割をしており、大きな影響を与えていると思います。そういった意味では、バレエはコンテンポラリーダンスと共にあって、現代の傾向を柔軟に吸収していく必要があると思っております。
本シーズンに私が選び、新国立劇場バレエ団が踊る作品が、劇場へ足を運んで下さる観客の皆様や劇場に携わる全ての方に感動を与え、ご満足いただけます様に全力を尽くして参りますので、宜しくお願い致します。
デヴィッド・ビントレー CBE
David Bintley CBE