演劇部門の芸術監督の選任について

2010年からの次期芸術監督について、演劇部門の選考をめぐり、一部の演劇人やジャーナリズムから疑問の声がありました。ご意見にこめられた演劇の振興と発展を願うお気持ちに、新国立劇場の責務の重さをあらためて感じています。
このことについては、既に当ホームページにて「「芸術監督選定プロセスの詳細開示を求める声明」に対する回答」として新国立劇場の考え方を公開しており繰り返しになる部分もありますが、あらためてご説明いたします。

演劇の芸術監督の役割

新国立劇場演劇部門の芸術監督は、芸術上の最高責任者として演劇の制作方針や全体の計画をたてるとともに、具体的には次の様な役割があります。

 〇シーズン演目作品(8〜9作品)のプラン作成、および交渉
 〇メインスタッフ・主演俳優決定
 〇新作戯曲発注における劇作家とのテーマなどの話し合い
 〇すべての作品の監修、制作進行チェックならびに自らの演出作品の演出
 〇理事会・評議員会および財団内部の会議への出席

こういった公演の企画や制作にかかわる仕事のほかに、広報取材の対応や演目発表記者会見などがあります。

演劇の芸術監督の特徴

新国立劇場の演劇公演は、1シーズンに、8作品以上の公演を、中劇場と小劇場で行なっています。演劇の公演作品の多くは、オペラやバレエの場合とは異なり、新作戯曲であり、新制作です。そのため、ひとつの戯曲ができあがり公演の初日を迎えるまでには、作家や演出家だけでなく、舞台美術や衣裳デザイナー、そして出演者と劇場が常に話し合いを続けつつ、作品の質はどうか、公演の準備が順調に進んでいるか、などを常にチェックしなければなりません。その中心にいるのが演劇の芸術監督です。

もとより、芸術監督は任期のある非常勤の職であり、常時劇場に勤務する必要はなく、他の劇場などで活躍することも期待されますが、常に様々な事が進行する制作現場と随時、密接なコミュニケーションを取りながら企画・制作の指揮・監督に当たる必要があります。

芸術参与から芸術監督へ―実質5年間の職務

芸術監督の任期は3年と定められていますが、就任前の2年間は、劇場内では芸術参与(次期芸術監督予定者)として諸準備にあたり、あわせて5年間かかわることになります。したがって、現監督は、本劇場において、すでに3年間が経ており、さらに任期満了まで2シーズンを監督として継続することになっています。
なお、このことは、演劇部門だけでなく、オペラ、舞踊部門についても同様です。


平成20年度第3回理事会における決定

平成21年3月24日に行われた平成20年度第3回理事会におきまして、次期演劇芸術監督選考について再度異論が出されたところ、過日の選考委員会に出席されていた選考委員でもある理事の方から、「昨年5月の演劇部門の次期芸術監督予定者選考委員会は自由な議論の下に適正なプロセスで行われ、最終的に満場一致で次期演劇芸術監督予定者を選出した。選考委員である当事者の私への質問や事実関係の確認をすることもなく、いきなり外部諸団体に呼びかけて問題を引き起こすやり方は極めて遺憾である。」との趣旨の報告がなされました。これを受けて理事会では、同選考に関しては、今後理事会で再議しないことが圧倒的多数で確認されましたことをご報告いたします。


(参考)公的芸術監督の役割について   劇作家 山崎正和氏のご意見

今回の選考にあたっての選考委員、理事であり、元兵庫県立芸術文化センター芸術監督の山崎正和氏のご意見(日本経済新聞2008年8月19日夕刊)を掲載します。

公的芸術監督の役割  ――バランスと常識 納税者の視点を  (抄)
私は兵庫県立芸術文化センター(西宮市)の芸術監督を開場前から十年以上務めました。この仕事に芸術家としてのひらめきはむろん必要ですが、実際には芸術監督というより「常識監督」だったと思います。
納税者の多数に還元すべく、ポピュラーな演劇を提供すべきだという議論が一方にある。反対に公のお金を使うなら、商業演劇ではできない古典や前衛を守るべきだという議論がある。両者の間で現実的な矛盾を引き受けるとき、求められるのは微妙なバランスであり常識でした。
芸術監督は世界的に公の劇場で芸術問題を担当する人をさします。商業劇場なら制作者が自分の金で企画をたてるが、芸術監督は税金の管理者たる行政側を啓蒙し、議員を説得し、最終的には納税者に訴えなければならない。
その間でコミュニケーションが欠ければ、芸術監督の責任です。
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ギリシャの昔から、演劇は公のお金で支援されるものですが、それを得る努力は演劇人の側がしなければならない。芸術監督は進んで官僚を味方につけるべきです。新国立劇場ができるとき、上演するソフトに国からお金が出るかどうかわからなかった。文化庁が財政当局と折衝し、前例を破り、支援が始まった。文化行政においては芸術家対権力の構図はなく、官僚対官僚の闘いが起こるのです。
西洋では市民の文化への関心が分散していない。大体において舞台芸術だとオペラとバレエとドラマがあれば、それでいい。ところが日本ではどの国より芸術ジャンルの数が多く、舞台芸術だけでも能、狂言、歌舞伎にオペラ、バレエ、新派、新劇とあって、国がお金を分ける基準がない。新国立劇場でいえば、三部門の芸術監督が競いあい、ウチにお金をくださいと国民にお願いするのが仕事なのです。